研究課題/領域番号 |
13J02468
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
村田 大紀 山口大学, 連合獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 関節軟骨 / 軟骨下骨 / 再生 / スキャフォールドフリー / 幹細胞 / 脂肪 / 滑液 / 滑膜 |
研究実績の概要 |
①実験用ミニブタの大腿骨荷重面(内側顆)に作成した骨軟骨欠損部に、あらかじめスキャフォールドを用いずに作製した同一個体の三次元立体細胞構造体を埋植した.骨組織の再生をCT検査,軟骨組織をMRI検査によって12ヶ月間経過観察した後,最終的には剖検後に肉眼的および組織学的に評価したところ,関節軟骨および軟骨下骨の再生に成功したことが明らかとなった. ②実験用ポニーから脂肪組織を吸引により採取して得られた間葉系幹細胞を用いて,移植に適した三次元立体細胞構造体の開発に取り組んだ.脂肪から分離した幹細胞を増殖させ,1億個以上の細胞が得られた段階で,1wellあたり10万個ずつ,96wellのU底プレート10枚に播種した.48時間後,細胞が球状の集塊をなして形成するスフェロイドを,鋳型の中に約960個積層し,直径5mmで高さ6mmの,移植に耐えうる強度を持った円柱状の細胞構造体を完成させた.また,関節内に作成した骨軟骨欠損部に,関節鏡視下で細胞構造体を移植する方法についても検討を重ね,さらに移植に用いる特殊器具の開発にも取り組んだ. ③関節炎と診断されたウマの滑液から細胞を分離・培養し,得られた細胞の性質を解析して「滑液由来間葉系幹細胞」と同定した.また,他の組織由来間葉系幹細胞(滑膜由来間葉系幹細胞,脂肪組織由来間葉系幹細胞,および骨髄由来間葉系幹細胞)と比較したところ,滑液由来間葉系幹細胞および滑膜由来間葉系幹細胞が特に軟骨分化能に優れており,分化した軟骨細胞が豊富な軟骨基質を産生することで,『軟骨(コンドロ)シート』を形成することが初めて確認された. ④実験用ポニーから脂肪吸引により採取され,分離して得られた脂肪細胞を天井培養することにより,脱分化脂肪細胞を獲得することに成功した.またこの細胞は,脂肪・骨・軟骨組織にも分化可能で,多分化能を持ち合わせていることも確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①前年からの計画通り,大腿骨内側顆(荷重面)に作成した骨軟骨欠損に,あらかじめ作製した細胞構造体を充填し,移植部位における関節軟骨および軟骨下骨の組織再生を,CTおよびMRI画像検査を用いて経過観察した後,病理学的(肉眼的および組織学的)に評価した.手術手技的に難易度の高い大腿骨内側顆へのアプローチも確立した上で,移植手術を無事に終え,その後の画像検査および病理評価を得ることができた.この成果は今後,国内外で学会発表するとともに,論文として科学雑誌にも投稿する予定である. ②実験用ポニーから脂肪組織を吸引により採取して得られた間葉系幹細胞を用いて,移植に適した細胞構造体の作製にも取り組んだ.脂肪から分離した幹細胞を増殖させ,1億個以上の細胞が得られた段階で移植構造体の作製に移り,直径5mmで高さ6mmの移植に耐えうる強度を十分に持った円柱状の細胞構造体を完成させることに成功した.また,関節内に作成した骨軟骨欠損部に関節鏡視下で細胞構造体を移植する方法や,移植に用いる特殊器具の開発ついても検討を重ねることができた. ③関節炎と診断されたウマの滑液から幹細胞を分離・培養し,「滑液由来間葉系幹細胞」と同定した.他の組織由来間葉系幹細胞と比較したところ,滑液由来間葉系幹細胞および滑膜由来間葉系幹細胞が特に軟骨分化能に優れており,分化した軟骨細胞が豊富な軟骨基質を産生することで,『コンドロシート』を形成することが初めて確認された.既にこの成果は,国内外で学会発表を行い,また論文として科学雑誌にも投稿し受理された. ④実験用ポニーから脂肪吸引により採取され,分離して得られた脂肪細胞を天井培養することによって,脱分化脂肪細胞を獲得することに成功した.またこの細胞は多分化能を持つことも確認された.この成果も今後,国内外で学会発表や科学雑誌へ論文投稿をする予定である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,「ブタの脂肪組織由来間葉系幹細胞の大腿骨荷重面移植」に加えて,「ウマの脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた三次元立体細胞構造体の作製」と「関節鏡視下での細胞構造体移植の検討」,および,「滑液由来間葉系幹細胞の分離・培養とその性質解析」を行った.これより今後は,滑膜由来の間葉系幹細胞をスキャフォールドフリーで三次元配置することにより立体細胞構造体を作製し,ウマの骨軟骨欠損モデルに移植する必要性が求められると予想される.すでに我々は,脂肪由来間葉系幹細胞を用いた三次元細胞立体構造体の作製に成功しており,今後すぐにでも滑膜由来間葉系幹細胞を用いた細胞構造体の作製に取り掛かる準備が整っている.また,そこで作製した細胞構造体を,欠損部が比較的深い骨嚢胞の骨軟骨欠損モデルに,関節鏡視下で移植する方法もこれまで検討を重ねてきた.さらに,滑膜由来間葉系幹細胞を用いて作成したコンドロシートを複数枚重ね合わせ,欠損部が比較的浅い関節内骨折や離断性骨軟骨症の骨軟骨欠損モデルに,関節鏡視下で移植する方法も検討している.その後,自然発症性のサラブレッド育成馬における大腿骨骨嚢胞に対して,関節鏡視下で幹細胞移植手術を行い,その効果を臨床的に評価することを計画している.そのため,実際の競走馬の骨嚢胞症例を前もって確保して細胞を準備し,すぐにでもその症例に移植できるよう準備を整えている.移植後の評価法に関しては,CTおよびMRI画像検査を用いて,関節軟骨および軟骨下骨の再生を継時的に観察することを計画しており,骨軟骨欠損モデル動物における剖検後の肉眼所見や組織所見と合わせて,組織再生を客観的に評価する方法もすでに検討済みである.来年度はこれらの検討結果を踏まえて,動物モデルに対する予備実験を行いながら実際の手術プロトコールを完成させ,自然発症例に対する移植実験へと移行していく予定である.
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