研究概要 |
本研究の目的は, 中央アジアに位置するアラル海流域において陸域の水循環を表現する物理モデルを構築することである. 特に, 下記の点を重視してモデルの構築・改良を進めている. 1. 流域内の水循環を物理モデルで表現できること2. アラル海流域の特徴を忠実に再現すること3. 現地の水資源管理にも具体的な考察が可能なモデル解析結果とすること 以上を踏まえ, 本年度は以下の成果を挙げた. 1)従来の解析では河川流量のピーク期がずれるという問題があったため, 山岳域における物理モデルを改良した. まず, 「標高モザイク」スキームを構築した. このスキームは, 従来のモデルでは考慮できない解析格子内での標高帯の混在をモデル内で考慮するための手法である. 加えて, 標高によって気象条件の変化する山岳域の特性に留意して気象データの内挿方法についての再検討を行った. 2)アラル海に隣接するカスピ海流域でも水循環解析を行った. アラル海流域での解析では流量が過大評価となる問題があり, その原因として流域をまたぐ水の移動が地下で行われている可能性があったためである. 3)上記のカスピ海解析の中でも過去の再現解析を試み, モデルの検証を他の気候帯においても行った. カスピ海の水位は20世紀に激しい水位変動を見せているが, その原因は科学的に十分に解明されていない. そこで, 陸域水循環モデルで過去の水収支を再現すると共に, 水位変動の原因に対して4つの仮説をたて, それぞれについて検証を行った. 4)昨年度に引続いて中央アジアにおける現地調査を行った. 渡航先はウズベキスタン, タジキスタン, キルギスの3力国である. 調査では, 灌漑地における定点気象観測システムの管理を継続・強化させると共に, 点在する水体(河川, 灌漑水路, 人造湖)において気象観測を行い, 現地機関にも訪問し現地の水関連問題について議論を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに研究が進んでいる. 今年度は, 既存のモデルにおいて一般的に山岳域の融雪期が実際より早いという問題に対し, 「標高モザイク」と呼ばれるスキームを開発し, 気象データの標高依存性についても検討をした. 加えて, アラル海流域から隣接するカスピ海流域へ流域をまたいだ水の移動がある可能性を見出し, カスピ海流域においても水循環解析を行った. カスピ海の水位変動には現在も未解明の問題が多く, 様々な仮説を独自に立て, 一つ一つ丁寧に検討していたようである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は, 山岳域の水循環モデルについて重点的に取り組み, 現地の灌漑地で続けている長期観測をまとめる予定である. 本年度行った山岳域の水循環解析では一定の改善が見られたものの, 依然として融雪量や融雪期には観測値と比較したずれがあったため, 山岳域の熱収支について更なる検証が必要である. そこで本年度は物理モデルと衛星解析の双方を用いることで, 河川流量に対して季節ごと標高帯ごとに融雪量の寄与度を明らかにし, 適切なモデル化の方法を探る。灌漑地における集中定点観測では, 前回の渡航時に流入口での流入量の観測を始めており, 今秋にはまとまった観測値を得られる予定である. その結果を用い, 現地農家による灌漑操作を明らかにするとともに, モデルの検証も行う
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