本研究の目的は,中央アジアに位置するアラル海流域において陸域の水循環を表現する物理モデルを構築することである.特に,下記の点を重視してモデルの構築・改良を進めている.1.流域内の水循環を物理モデルで表現できること,2.アラル海流域の特徴を忠実に再現すること,3. 現地の水資源管理にも具体的な考察が可能なモデル解析結果とすること.以上を踏まえ本年度は以下の成果を挙げた. 昨年度と同様,従来の解析において課題であった河川流量のピーク期がずれるという問題に対し,サブグリッドスケールの効果を考慮した「標高モザイク」スキームを改良すると共に,空間解像度の異なる解析間での比較を行った.その結果,空間解像度が低い場合でも「標高モザイク」スキームによって高い解析精度が保持される一方で,夏季の氷河からの融解量の精度が悪いことが分かった.また,高解像度と設定した1km解像度においても融雪期がずれることが分かった. 中央アジア全域でMRI-AGCM3.2Sの出力値を用いた気候変動影響予測を行った.その結果,当該地域で予測されている降水量の増加と気温上昇によって,水資源量はほぼ変化しないのに対し農地からの蒸発散量が増加するために水需要量が増加し,水逼迫が深刻化することが予測された.加えて,水面からの蒸発量が増加するためにカスピ海は世紀末気候下で急激に減少することも予測された. 2011年よりウズベキスタンにおいて継続していた現地灌漑地における集中定点観測の結果に基づき.水循環モデル内の灌漑スキームを改良した.その結果,現地農業機関内の資料に記載されていた農業統計値と整合した灌漑規則を流域全域で再現できた. ウズベキスタン,タジキスタンの2カ国で現地調査を行った.調査対象は下流域の灌漑地や山岳域である.現地機関にも訪問し,現地の水関連問題について議論を行った.
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