研究課題
本研究は加速器、核融合等の極限環境下で使用可能な人工ダイヤモンド放射線検出器の開発を目指すものである。平成25年度はダイヤモンド結晶中の電荷捕獲解消を目指した。大気中から合成装置に混入する窒素の影響低減のため、合成装置試料導入部をアルゴンガスで封止したバルーン(アルゴンバルーン)で覆いCVD合成をおこなった。その後、試料について微分干渉顕微鏡による表面形態観察、欠陥、不純物評価のためカソードルミネッセンス(CL)測定、窒素不純物定量のためのSIMS測定、電荷収集効率評価のためα線誘導電荷量分布測定をおこなった。合成した試料は表面にみられるステップバンチングが消失た。ところがCLルミネッセンス測定においては235nm付近にみられる自由励起子再結合発光が低下、575nm付近においてN-V-N発光中心がみられた。SIMS測定においては窒素不純物量は測定下限以下であった。α線誘導電荷量分布測定においては合成した3つの試料の電荷収集効率平均は正孔96±1%, 電子92±2%程度であった。前年度まで合成していたアルゴンバルーンを使用しない試料の電荷収集効率は電子95±1%, 正孔100±0.7%であり、電子・正孔ともに電荷収集効率が低下した。以上のことから従来予想していた窒素不純物が電荷捕獲の原因ではないことが明らかになった。また、慣性核融合実験における中性子計測の一環として、大阪大学レーザー研究所において、高速点火実験のターゲット爆縮時追加熱レーザーにより発生する制動X線に対し、ダイヤモンド検出器の応答測定を行った。制動X線に対しパルス幅2ns未満の高速応答を示した。現状、慣性核融合では液体シンチレータで中性子計測が行われているが、高フラックスのγ線、X線下では燐光成分が中性子計測の妨げとなる。人工ダイヤモンド検出器の応答結果は高速点火における中性子計測の手段として期待できる。
2: おおむね順調に進展している
大気混入部分をガス雰囲気にすることで窒素不純物の低減を図ることに成功し、CVD装置内窒素が低下したことによる問題点が明らかになった。また、すでに大気リークの原因となっている試料導入部は改修され、装置内真空度も10^-6Torrから10^-7Torrに改善した。
今後は結晶内の点欠陥の低減を図るため、CVD合成時のメタン濃度を低減し成長速度を下げ、合成をおこなう予定である。合成したダイヤモンドは検出器化し、JAEAにおける14MeV中性子に対する応答測定、大阪大学において慣性核融合の中性子計測をおこなう。また、耐放射線性試験としてダイヤモンド検出器へのイオン照射を予定している。
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