研究課題
私は、日本の赤外線天文衛星「あかり」によって得られた、中間赤外線(9,18μm帯)diffuse全天マップの作成、およびそのマップを用いた全天の有機物質の進化に迫る研究を行っている。特に「あかり」9岬帯の観測は、多環芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれる、銀河系や近傍銀河において遍在性の高い有機物質からの放射をトレースしており、この波長帯の全天マップを作成することは、星間空間中の有機物質を研究するにあたって非常に重要である。私は「あかり」データ処理・解析チームの一員として、中間赤外線diffuse全天マップの作成に携わり、マップの一般公開に向けて解析を行っている。今年度はマップからの黄道光除去を行った。黄道光とは太陽系内の惑星間ダストからの熱放射であり、中間赤外線においては最も強度の強い前景成分である。銀河系や近傍銀河からの赤外線放射を調べるためには、この黄道光の除去が必須であり、これまでも過去の赤外線観測などから、黄道光をモデル化することによって除去が試みられてきた。しかし従来のモデルでは、銀河系由来の赤外線放射の弱い領域についての議論をするには不十分であった。そこで私は、このモデルを「あかり」のデータを使って改良し、これまで以上に正確な黄道光の除去を可能にした。さらに私は、黄道光を除去した9μm帯マップを用いて、銀河系中心付近から北側に30度以上に広がった大規模なPAH放射を発見した。近傍の星間ガスと比較した結果、このPAH放射は実際に銀河系中心に付随している可能性があることが分かった。さらにこのPAH放射の構造とFermi bubblesと呼ばれるガンマ線放射の構造が似ており、また遠赤外線マップとの比較から、この領域では周囲と比較してダストに対するPAHの存在量が大きくなっている可能性が高いことを明らかにした。これらの結果から、過去のアウトフローなどの銀河系中心における活動が、この領域におけるPAHの生成に大きく関わっているという結論を得た。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、「あかり」中間赤外線全天マップからの黄道光除去を行い、またそのマップを用いてPAH放射と銀河スケールのガンマ線放射であるFemi bubblesとの比較を行うことによって、有機物質の起源に迫る研究を行うことができたため。
黄道光除去後のマップの評価を行い論文としてまとめ、マップは一般に公開できる形にする。Fermi bubblesについては、さらにほかの波長帯との比較を行い、具体的に起こっている現象を明らかにする。さらに全天のPAR放射を調査し、銀河系内や近傍銀河において同様の現象が存在するのかどうか探る。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Astronomy & Astrophysics
巻: Volume 556 ページ: A92-1-A92-9
10.1051/0004-6361/201321614
International Astrobiology Workshop 2013, Procee dings of the conference
巻: No.1766 ページ: 1048
http://www-ir.u.phys.nagoya-u.ac.jp/