研究課題/領域番号 |
13J02579
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
隈元 利佳 慶應義塾大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 権利移転 / 財産権 / 人格権 / パブリシティ権 / 肖像権 / フランス法 / イメージの権利 |
研究実績の概要 |
本研究は、人の肖像に関する権利の移転をどのように規律すべきかを探るものである。その目的は、本来肖像は取引になじまない人格要素でありながら、エンタテイメントビジネス等においては財産的価値を生む、という特殊性に対して、伝統的な権利移転理論がどのように呼応するべきかを明らかにすることにある。 上記のことを検討するためには、パブリシティ権における財産権的性質と人格権的性質の共存をいかにして理解するかという法的性質論の考察が基礎的な作業として必要となる。昨年度より、フランス法において日本の肖像権及びパブリシティ権と同様の役割を担っている「イメージの権利」についての議論を参照しながらこの作業を行っている。 今年度は、「イメージの権利」が承認された当初のフランスにおいて、同権利が肖像に関する精神的利益についてと財産的利益についての区別を問わず一元的に形成された過程について研究を進めた。その結果、以下のように日仏が対比されることが明らかになった。日本では、プライバシーが制限される有名人に関しては、肖像の無断使用に対する救済をプライバシー権によって与えることができず、その点を補うために、財産的利益の保護のための権利たるパブリシティ権を新たに認める必要があった。これが、日本において、肖像権とは別の存在としてパブリシティ権が認められる前提となる事情である。それに対して、イメージの権利が判例上承認された当初のフランスでは、上記のような前提は存在しなかった。それゆえに、肖像に関する精神的利益についてと財産的利益についてを区別せずに一元的なイメージの権利が承認された。 この対比から、日本において、別個の権利としてのパブリシティ権の存在意義やその法的性質を考えるにあたって、現在もなお上記の前提が存在するか否かという点が重要な意味を持つという示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、本研究の一年目においてパブリシティ権の法的性質についての私見をまとめて論文として公表し、二年目である本年度にパブリシティ権の移転可能性についての考察を行う予定であった。 しかし、フランス法の分析を通して、パブリシティ権の法的性質の考察のためには、別個の権利としてのパブリシティ権の存在意義や、肖像権とパブリシティ権という権利区分の意義を問い直すことが重要であるとの示唆を得た。したがって、現在はこの点の考察に注力しており、そのため、パブリシティ権の移転可能性についての考察が当初の予定よりは遅れている。しかし、これは本研究にとって、省略してはならない重要な過程であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に行ったフランス法の研究に示唆を得て、平成27年度は、日本における、別個の権利としてのパブリシティ権の存在意義や、肖像権とパブリシティ権という権利区分の意義を問い直す試みを行う予定である。その成果を元に、現在の日本におけるパブリシティ権の法的性質論に対する私見を提示し、その内容を一本の論文の形で公表する予定である。その後、肖像に関する権利の移転についての研究を行い、論文の形で公表する予定である。
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