現代社会で行われる多様な商品取引においては、古典的な財産権移転理論が想定していないものがあり、その一例として、エンタテイメントビジネスにおける肖像の取引が挙げられる。パブリシティ権の問題として論じられるこのような取引を、財産権移転理論との関係において考察することが本研究の目的であった。 今年度は、①本来は主体である「人」の人格属性である肖像は、どのような法理論的基礎によって財産的価値を付与され、あたかも「物」のように特別な財産として商取引の対象となっていくのかという点、及び、②人格属性という点において特殊な財産である人の肖像を対象とする商取引は、利用許諾契約などの形をとるが、そのような契約の成立・履行や侵害の局面においては、他の商取引に適用される古典的な財産権移転理論はいかなる修正を迫られるか、という点を検討課題として設定した。 検討においてはフランス法との比較法研究を行った。契約非当事者間における肖像の無断利用をめぐる紛争が多い日本と比べて、フランスでは、肖像に関する契約が締結され、その契約に端を発する紛争が訴訟となった例が多いことがその理由である。フランス法から得られる日本法への示唆として、次のことを論文において主張した。自らの肖像の商業的利用を許可する契約を締結することは契約自由によって認められ、その契約自由は人格権によって理論的に基礎づけられる。そして、その契約の効果として肖像に関する財産権が発生する。このような、人格権法理と契約法理の適切な接続によって、「人」の人格属性である肖像に関する「財産権」の発生が理論的に基礎づけられる。 なお、肖像という人格属性の「財産権」を対象とする契約は、人格属性がゆえの特殊性によっていかなる影響を受けるかという点、すなわち上記課題②については、検討の途中であるため今後の研究において解明する。
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