本年度は研究計画に沿って博士論文の取りまとめに向けた作業に注力した。とくに、論文全体を方向づける理論的視座を構成していくために、農業労働者論の蓄積が豊富な欧州などの事例や研究動向の把握と、自らが研究対象としている日本の東南アジア出身農業労働者の置かれた状況との比較検討を行っていくことを課題とした。とりわけ移民農業労働者の歴史が古く理論的研究の蓄積がある欧州の事例との比較を念頭に置いた。具体的には夏季にオランダに渡航し、東欧および南欧出身の外国人収穫労働者の実態調査を行うとともに、オランダ・ワーヘニンゲン大学の農村社会学グループでの報告と意見交換を行った。オランダを選んだ理由は、集約的農業国であり、なおかつ移民季節労働者の割合が高かったこと、さらにワーヘニンゲン大学の農村社会学グループが近年の農民研究の潮流のなかで先端的役割を果たしており、理論的示唆が得られるものと考えたからである。 オランダへの渡航で得た示唆と研究蓄積との比較から、グローバルな資本主義下における農業集約化の過程と、そのもとでの農民の流出や流入、その結果としての異文化間軋轢という問題の大枠を描けたこと、そしてアジア農民研究の視点との移民研究の視点の総合から農業労働者のエスニシティ問題にアプローチする、という研究全体を貫く方向性をあらためて明確化できことができた最大の成果でる。 今年度に得られた成果は、これまでの研究と併せて、直近ではカナダで2016年8月に行われる第14回国際農村社会学会議で口頭報告(査読承認済み)において発表する。世界各地の農村研究者と農業労働者論に関するセッションを組む機会に恵まれたので、そこでの意見交換を通じてさらに論文の構成を彫琢し、早い段階での博士論文の提出に向けて引き続き努力していく。
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