研究課題/領域番号 |
13J02647
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 大喜 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 亜酸化窒素 / 熱帯林 / リン資源 / 脱窒 / 微生物呼吸効率 / 窒素循環 |
研究概要 |
1. マレーシア・キナバル山のリン可給性の異なる9種の森林において亜酸化窒素放出量を観測したところ、リン資源の豊富な森林で亜酸化窒素放出量が高いという明瞭なパターンが見られた。このことから当初予測していた「リン資源の豊富な土壌では樹木による窒素の吸収がリン不足によって制限されることがないため土壌窒素資源量は減少し、亜酸化窒素発生量が低くなる」との仮説は必ずしも成り立たないことを示した。逆に、リン資源の豊富な森林では旺盛な樹木成長による豊富な資源供給(リター由来)や活発な微生物活動によって窒素循環が促進され、亜酸化窒素放出量は増加する可能性が示された。この観測結果は、これまでマメ科植林地で報告してきた結果と全く逆のものであり、マメ科樹種の優先する森林と非マメ科樹木の優先する森林でリン資源量が窒素循環速度に与える影響が異る可能性がある。この違いは、今後明らかにするべき課題である。 2. 一方植物の影響を排除した室内培養実験系においては、リン添加によって亜酸化窒素放出量が減少するという結果が得られた。これは、「植物の存在する現場ではリン施用によって亜酸化窒素放出量が減少するが根の存在しない培養系では逆に減少する」というこれまでの結果と真逆のものであった。微生物呼吸と微生物バイオマスの解析から、リン施用によって呼吸の際の同化効率が高くなり微生物の成長に必要な炭素源が減少しそれに伴い脱窒呼吸産物である亜酸化窒素の放出量も減少した可能性が示された。本研究結果はおそらく世界で初めての報告となる。 3. 上記2つの実験に加え、マレーシア・キナバル山において根排除区および非排除区でのリン施用実験を、タイ・サケラート環境ステーションにおいて5種の植林地でのリン施用実験を実施中である。来年中旬には結果が得られる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フィールド調査、培養実験のいずれにおいても、これまでの結果および当初の予想を覆す新たな結果を得、今後の研究の進展が大いに期待される。特に土壌培養系における主要な結果「リン添加によって微生物の呼吸効率が改善され、亜酸化窒素放出量が減少する可能性」を世界に先駆けて提示した点は、当初の計画を遥かに凌ぐ優れた成果であると確信する。
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今後の研究の推進方策 |
当初は「リン資源の豊富な土壌では亜酸化窒素発生量が低くなる」との仮説を東南アジア全域で広く検証するとの計画であったが、マレーシア・キナバル山のモデルサイトでの結果(非マメ科の森林)がこれまでの繕果(マメ科の森林)および仮説と真逆であったことから、そのメカニズム解明を中心とした計画に変更する・マメ科と非マメ科樹種の比較を行っているタイ・サケラート環境ステーションでの実験について、硝化ポテンシャルおよび脱窒ポテンシャルなどの微生物活動の指標を追加測定し、より詳細なメカニズムの解明に努める。また、リン添加による呼吸効率の上昇が亜酸化窒素に与える影響については、実験対象土壌をタイやインドネシアの土壌にまで広げ、その普遍性を検証する。
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