研究課題/領域番号 |
13J02647
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 大喜 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 亜酸化窒素 / リン / 熱帯林 / メタン / 二酸化炭素 |
研究実績の概要 |
本課題は、熱帯マメ科植林地においてリン施用が根の窒素吸収を促進させN2O発生量を減少させるというこれまでの研究結果を受け、以下3つの研究目的を設置したものである。①リン施用がN2O発生量を減少させる現象が熱帯林で普遍的に起こるかを検証する。②リン施用がN2O発生量を減少させた詳細なメカニズムを解明する。③異なる複数の熱帯林における観測結果から、熱帯では比較的リン資源の豊富な土壌からのN2O発生量が少なくなるとの仮説を検証する。 1. リン資源の豊富な土壌からのN2O発生量は必ずしも少ないわけではないことを明らかにした マレーシア・キナバル山のリン可給性の異なる9種の森林においてN2O放出量を1年間観測し、リン資源の豊富な森林でN2O放出量が高いという明瞭なパターンを明らかにし仮説③は成り立たないことを明らかにした。申請者のこれまでの結果は熱帯マメ科植林地で得られたものであり、マメ科樹木と非マメ科樹木では、リン獲得戦略が異なるためにリン資源に対する応答が異なるとの可能性について今後検討する予定である。 2. タイのサケラート環境ステーションにて、N2O発生量を観測した タイ・サケラート環境ステーションの5種の植林地においてリン施用実験を行い、N2O放出量を1年間観測した。本研究地が非常に砂質な土壌の上に成り立っている森林であり、雨季においても湿潤になりにくい環境であったため、雨季においてもN2O放出量が少なく、リン施用の影響について検出することはできなかった。しかしながら、本観測結果によって、これまでN2Oの放出源と言われていた熱帯マメ科植林地であっても、砂質土壌の上に成立している場合においては、N2O放出量は非常に少ないことを報告することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画を柔軟に変更することによって、本課題で設定した仮説は成り立たないことを明らかにし、新たな仮説を展開させることに成功した。 さらに、計画に加えて二酸化炭素やメタンについても観測を行い、貴重なデータを得ることに成功した。 また、結果の公表についても順調に進んでおり、2013年度に得られた培養実験の結果は、既に執筆を終え、現在国際誌に投稿中である。また、植林地のリター分解に対するリン施用の影響について考察した論文は、現在2度目の改訂を終え、間もなく受理予定である。さらに植林地の培養実験結果およびタイの観測結果について報告した2本の論文は既に執筆を終え、間もなく投稿予定である。これらに加え、現在3本の論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究では、マレーシア・キナバル山のリン可給性の異なる9種の森林においてN2O放出量を1年間観測し、リン資源の豊富な森林でN2O放出量が高いという明瞭なパターンを明らかにし、申請者がこれまで熱帯マメ科植林地で得た結果とは逆の結果を示した。これを受け、今年度は特に「マメ科樹木と非マメ科樹木では、リン獲得戦略が異なるためにリン資源に対する応答が異なるとの可能性」について検討する。その詳細は以下のとおりである。 ①マメ科樹木はリン施用によってリン獲得のためのフォスファターゼ生産に用いる窒素要求量が減るため、窒素固定量が減少し、生態系および土壌中の窒素量が減少し、N2O放出量も減少する。 ②非マメ科樹木では、リン施用によってフォスファターゼ生産に用いる窒素要求量が減少するため土壌中からの窒素吸収量が減少し、生態系および土壌中の窒素量は増加するため、N2O放出量も増加する。 具体的方策として、マメ科および非マメ科樹木下でリン施用を行い、窒素固定量、N2O放出量、フォスファターゼ活性の変化を測定する。
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