研究概要 |
25年度はピラミッドの列の相転移現象に関する研究を行った. ピラミッドとはあるヒエラルキーをもつ測度距離空間の集合族のことであり, Gromovによる測度距離空間全体の空間のオブザーバブル距離が生成する位相でのコンパクト化の元である. ピラミッドの列P_nが相転移性質をもつとは, ある正の実数列c_nが存在し, 正の実数列t_nに対してc_n/t_nが0に収束するときにt_nP_nが1点測度空間のみからなる集合に収束し, c_n/t_nが無限大に発散するときt_nP_nが測度距離空間全体の集合に収束することをいう. c_nを臨界スケールオーダーとよぶ. この性質が重要な理由は, 相転移性質をもつリーマン多様体の列をc_nでスケールしピラミッドとして極限を考えるとある無限次元空間を表現するピラミッドを得ることができる. 今年度得ることができた結果は以下の三つである. いずれも塩谷隆氏(東北大学)との共同研究で得られた結果である. 一つ目はGromovが測度集中性を判定するために導入したκ-オブザーバブル直径とよばれる測度距離空間の不変量をピラミッドに拡張し, その極限公式を証明した. 二つ目は極限公式を応用して, ピラミッドの列が相転移性質をもつための必要十分条件がそのオブザーバブル直径が0<κ<1によらないオーダーをもつことであることを示した. 三つ目は1≦p≦∞と1点ではない測度距離空間Xに対して, その1-p直積測度距離空間Xanは相転移性質をもつことを示した. ただし1<p<∞の場合はXにinf_x≠yd (x, y)>0という離散的な仮定をおく. 三つ目の結果の応用としてコンパクトで連結なリーマン多様体Mに対して, その直積リーマン多様体M^nが相転移性質をもつことがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針は今年度の研究の続きとして, 相転移性質をもつリーマン多様体の列を臨界スケールオーダーでスケールした列のピラミッドとしての極限の具体例を構成することと, 本来25年度に行う予定であったオブザーバブル距離を二つの無限測度をもつ点付き空間の間距離へと拡張し, 測度距離空間に対して定義される「リッチ曲率が下からおさえられている」という条件である曲率次元条件の安定性を調べる予定である.
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