メコン河下流域を対象に,大河川の洪水氾濫が農業に与える影響をとくに肥沃化の効果に着目して評価した. 様々な氾濫規模の年について栄養塩輸送モデルを実行し,計算結果から求められる肥沃化指標によって肥沃効果と氾濫規模の関係を評価した.氾濫規模が大きいほど領域全体での肥沃効果は大きくなるが,氾濫原の各地点を見ると小・中規模の氾濫発生年に肥沃効果が大きくなる傾向があることが示された.また,農業の持続可能性を評価した.中規模氾濫年には氾濫原の約78%の地域で現在の単収以上の農業を無施肥で持続可能に行うことが出来る一方,氾濫原の端部などでは現在の農業を持続可能に行うためには施肥が必要であることが示された. 洪水氾濫が農業に与える影響は,水位や浸水期間などの水理・水文的影響と,洪水氾濫によってもたらされる栄養塩の影響の双方がある.様々な氾濫規模の年について,水のポテンシャル作数・リンのポテンシャル作数・総合評価のポテンシャル作数を用いて,影響の単独および総合的な評価を行い,氾濫規模と洪水氾濫が農業に与える影響の関係を考察した.リンのポテンシャル作数は大規模氾濫年で最大値をとり,氾濫原において氾濫規模が大きいほどリン獲得の点で有利であることが示された.一方, 水のポテンシャル作数の氾濫規模による違いは小さく,大小関係の傾向も見られない.総合評価のポテンシャル作数の氾濫規模による違いは小さいが,氾濫規模が大きいほど氾濫面積が大きくなるため,氾濫規模が大きいほど,領域全体の生産量ポテンシャルは大きいと考えられる. 栄養塩輸送モデルの入力条件を変化させ,将来の流域環境や気候の変化が農業に与える影響を考察した.ダム建設などによる雨期流量の減少や渇水の極端化が農業生産性を低下させる恐れがあることを示したほか,洪水の極端化が現存する氾濫原の農地における農業生産性与える影響は大きくないことが示された.
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