両大戦間期の赤十字国際委員会(ICRC)の人道活動を国際関係の中で考察するという研究課題を進めるために、本年度は、パリでの在外研究を行った。また、これまでの研究成果を論文並びに口頭発表で積極的に発信することに努めた。 パリでは、ICRCの活動を国際関係の中に位置づけるために、国立図書館を拠点に、同時代の諸国家の人道問題への関与に関する刊行物及び研究書を網羅的に閲覧することに努めた。また、外務省文書館において、ロシア難民関連の史料収集を行った。 本年度は国外(スイス・フリブール、フランス・パリ、ポルトガル・リスボン)で3回の異なるテーマでの発表を行った。いずれも第一次大戦からその直後の時期における捕虜を対象とした人道活動の役割及びその限界を分析したものである。それぞれ、大戦中にスイスに収容された西部戦線捕虜、終戦後のフランスにおけるドイツ人捕虜、東部戦線の捕虜帰還事業を扱い、捕虜の置かれた状況の多様性を明らかにするとともに、いずれの場面でも中立国や国際組織が人道的理由から介入し、捕虜の生活を一定程度改善する役割を果たしたことを示した。また、こうした活動が、関係国・組織の政治的思惑、とりわけ戦後の国際秩序の形成をめぐる国際政治に強く影響を受けていた点を考察した。 本年度は、二本の論文を出版した。一本目は昨年度から準備していた「難民保護の歴史的検討:国際連盟の挑戦と「難民」の誕生」(『難民・強制移動研究のフロンティア』採録)、1920年から1951年までの難民問題の変遷と国際組織の対応を論じている。二本目としては、上述したフリブール大学でのシンポジウムを開催した学会が発行する雑誌『Relations internationales(国際関係)』に、発表内容を論文として大幅に加筆訂正したものを掲載した。
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