本研究は高プラントル数液柱における温度差駆動マランゴニ対流の不安定性と流動構造について明らかにすることを目的とするものであり,本年度は以下の成果が得られた. (1)2008年~2013年に行われた宇宙実験(テーマ略称「MEIS」)で得られた実験データについて,3-D PTVを用いた解析を行い,マランゴニ対流が不安定化すると,渦構造がHydrothermal Wave(液柱表面に生じる局所低温領域)とともに液柱軸方向に伝播することを確認した.渦構造の伝播方向は,Pr=67の場合,ARが1.25以下では高温側から低温側,ARが1.50以上では低温側から高温側であることがわかった.また,Pr=207の場合,ARによらず伝播方向が高温側から低温側であることがわかった.ここで,Prは作動流体のプラントル数,ARは液柱のアスペクト比(液柱高さ/ディスク直径)である. (2)地上実験において,さまざまな液柱形状でマランゴニ対流の振動流遷移条件,振動モードを計測した.液柱形状がマランゴニ対流の不安定性に及ぼす影響を整理するため,(気液界面長さ/液柱ネック径)で定義されるSDRを提案した.SDRは地上実験のみならず,宇宙実験に対しても有効であり,これを用いることで液柱形状がマランゴニ対流の不安定性に与える影響がより詳細に明らかになった. (3)2014年~2015年に行われた宇宙実験(テーマ略称「Dynamic Surf 2」)において,微小重力環境における多くの重要な実験データが所得された. 液柱マランゴニ対流に関する宇宙実験は,国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」における初の科学実験として始まった大規模プロジェクトである.本研究は,そのデータ解析の多くを担うものであり,本研究で得られた成果は今後の液柱マランゴニ対流研究を進めるうえで非常に重要であるといえる.
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