研究概要 |
本研究の課題名は「水域ネットワークに生じる流動・輸送現象に対する効率的解析手法の開発」である. 本研究では, 水田や畑地を主とする農地, 農業用排水路網やその下流側接続河川, それらが流入する内湖や湖沼などの閉鎖性水域に存在する地表水の連続的な結合を水域ネットワークと称している. 本研究の主目的は, (1)水域ネットワークに生じる水の流動現象および溶質の輸送現象を合理的に記述する数理モデルの導出, (2)数理モデルに対する精緻かつ効率的な数値解法の開発(3)数理モデルおよび数値解法の実問題への適用である. 上記の目的(1)-(3)を一貫的に実施することにより, 農地を取り巻く水理・水文環境に対する極めて効果的な定量評価手法の確立が実現されるものと考えられる. 本研究では, 水域ネットワークにおける輸送現象を浅水流理論の範疇で記述する, 農業用排水路網や河川における水の流れは卓越した流下方向を有するため, 局所1次元モデルの枠組みで取り扱う. とくに本研究では開水路網を分合流点(0次元)と水路(1次元)から構成される有限連結グラフと同一視する, 一方で, 必ずしも卓越した流下方向を有さない閉鎖性水域における水の流れおよび溶質輸送現象は, 水平2次元モデルの枠組みで取り扱う. 研究初年度である本年度は, 上記の目的(1)および(2)に重点を置きつつ, (3)のためのデータ採取を実施した. 数理モデルとしては, 水の流れを記述する浅水流方程式ならびに溶質輸送現象, とくに移流分散現象を記述するコルモゴロフ方程式系を導出した. 後者の利用が, 既往研究にはない本研究の独創的な点のひとつである. 上記の方程式に数式操作を施すことで, 非古典的な溶質輸送方程式など, 派生する各種方程式をした. 各数理モデルに対しては, 有限要素法や有限体積法を基礎とした数値手法を開発した, また, 研究対象地である滋賀県高島市今津町に存在する農業用排水システムにおいて実測データを採取し, 開発した数理モデルや数値手法の妥当性や有用性の検証を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では, 水域ネットワークを対象として水の流れや各種輸送現象を記述する方程式の導出ならびにその求解のための数値手法の開発, 実問題への適用を行うことを主目的としている. 当初の計画通り, 研究初年度である本年度において数理モデルの開発は概ね完了している. 加えて, それらに対する数値手法の開発に関しても順調に進んでいる. 以上が区分②を選択した理由である.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた研究成果により, 数理モデルの導出ならびに数値手法の開発は概ね完了した. 今後の主要な研究課題は, これまでに開発した数理モデルや数値手法の妥当性をより詳細に検証するための、研究対象地における実測データ収集である. これは, 初年度に引き続き行うこととなる. また, 開発した数値手法に関しては十分な数値計算精度を有することが既に確認されているが, 計算効率を大きく損なうことのない程度の修正によりさらなる精度向上が実現しうることが示唆されている. そのため, 今後は数値艦法の改良も適宜行う予定である.
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