研究課題
本研究は、ホランダイトやカルシウムフェライトといった複雑で、かつ特殊な低次元構造を持つ遷移金属化合物の電子状態を明らかにし、その物性の起源を解明することを目的としている。今年度は各々の物質の基本的な電子構造を明らかにするとともに、その物性解明のための強相関模型を導出する計算コードの開発に力を注いだ。詳細は以下のとおりである。K_2Mo_8O_16に創発する超原子結晶Moホランダイトの低エネルギー電子状態は、Mo_4クラスターが分子軌道をひとつもつ「超原子」と見做せ、これがっくる超原子結晶として記述できる可能性を以前指摘した。これについて、ワニエ「関数を用いて超原子を基底に持つ有効模型を第一原理的に導出することで示した。層状カルコゲナイドIrTe_2の構造層転移と超伝導低温で構造相転移を示し、IrをPtで置換することで特殊な超伝導が発生するIrTe_2の電子状態について研究を行った。最近明らかにされた低温構造について第一原理計算を行い、IrTe_2は構造相転移に伴い電気伝導面ががらりと変わるという非常に特殊な電子構造の変化を起こしていることを明らかにした。また、高温構造の計算結果をARPESの実験と比較することにより、この系ではIrの5a電子だけでなく、Teの5d電子のスピン軌道相互作用も重要であることを明らかにした。強相関手法のための有効模型を導出するプログラムの作成有効模型を第一原理的に導出するための計算コードとしてWannier90やWien2wannierが公開されている。しかしこれらは、ホランダイトのような複雑な結晶構造でかつ、今回の超原子のような特殊な基底を持つ場合にはそのままでは適用できなかった。これを解決し、どんな構造、基底でもワニエ関数による有効模型を導出できるように既存のコードを補佐する計算コードを作成した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は個々の遷移金属化合物の電子構造をGGA/GGA+Uの枠組みでの明らかにすることと、強相関的手法を用いるための有効模型を導出できるようになることを目標として研究を行った。当初の予定からは多少前後したが、研究成果を得られているため順調に進展しているといえる。
今後もK_2V_80_<16>やNaV_20_4といた他の遷移金属化合物の物性を明らかにするため、GGA/GGA+Uの枠組みで電子状態を明らかにしていくとともに、有効模型を導出しその解析を進めていく予定である。同時に、GGAでは取り扱えない強い電子相関の効果を考慮するためにLDA+DMFTの計算コードの開発も進めていく。また、IrTe_2が示すスピン軌道相互作用が絡んだ特異な超伝導状態について言及することができなかったため、この系についても有効模型を導出し、議論を行う予定である。
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