研究実績の概要 |
昨年度は核磁気共鳴(NMR)装置等を用いた測定により、抗菌ペプチドTachyplesin I(TP I)とグラム陰性菌外膜の主成分であるリポ多糖(LPS)の複合体モデルを、原子レベルで決定することに成功し、結合にはTP Iの両末端に位置する塩基性残基および芳香族残基が重要であることを明らかにした。ここまでの結果は論文にまとめ、海外学術雑誌へ投稿・受理された。本年度は上記の成果をベースとし、LPS結合能を上昇させうる各種変異体を作製し、LPS結合能の評価を試みた。しかし、用いるLPSの種類、濃度、反応時間等の条件検討に難航し、現時点でまだ有意な結果は得られていない。 TP Iには強力なキチン結合能があることも知られており、昨年度はその詳細についての研究も行った。キチンは真菌の外膜成分であることから、抗菌ペプチドのキチン結合能は抗真菌活性に重要であると考えられているものの、相関については不明である。TP Iのキチン結合能に関する研究は、抗真菌活性との相関の有無を解明するうえで重要であり、さらにTP Iの生理活性を明らかにする点でも意義がある。 昨年度はキチンを構成する六糖の存在下でNMR測定を行い、TP Iの4残基(Phe4, Arg9, Tyr13, Arg17)がキチン結合に重要であると推測することができた。本年度は、その4つの残基を1残基ずつAlaに置換した変異体、さらに2つの疎水性残基をAlaに置換した変異体と、2つの塩基性残基をAlaに置換した変異体、そして4残基全てをAlaに置換した変異体を作製し、キチン結合アッセイを行った。その結果、TP Iのキチン結合能には主に疎水性残基であるF4AやY13Aが重要であり、R9AとR17Aは副次的に結合に関与している、ということが示唆された。ここまでの研究結果をまとめ、現在海外学術雑誌への投稿を準備中である。
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