研究課題/領域番号 |
13J02814
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
安藤 卓人 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 海洋無酸素事変(OAEs) / 白亜紀 / バイオマーカー / ケロジェン / 海洋基礎生産者 / 渦鞭毛藻 / アクリターク / トコフェロール |
研究実績の概要 |
約1億年前の中期白亜紀は「超温室期」とも称される特に温暖な時代であったと考えられている。本研究では,当時の海洋生態系を解き明かすために,テチス海域と北西太平洋域における海洋無酸素事変(OAE)時の海洋環境と生物応答の比較を行なっている。具体的には,詳細な国際対比がなされている北海道・蝦夷層群と南東フランス・ボコンティアン堆積盆のOAE相当層準の堆積岩試料中の分子化石(バイオマーカー)やケロジェンを用い,酸化還元状態,海洋微生物の群集組成,生物の生理応答の比較を行なっている。平成26年度は,北海道苫前地域の大曲沢と朱鞠内沢セクションに分布する蝦夷層群・佐久層のOAE2相当層準のバイオマーカー・ケロジェン分析を詳細に行い,平成25年度までに分析した南東フランスのデータとの比較を行なった。 分析の結果,苫前地域の堆積岩は同時期に堆積した大夕張地域の堆積岩よりも未熟成であることが分かった。バイオマーカーを用いた酸化還元指標の還元的なピークがOAE2相当層準と異なることから,テチス海などで起きたとされる無酸素化とは関係ない可能性を指摘した。加えて,申請者らが改良した渦鞭毛藻の生産性指標からは,苫前地域における渦鞭毛藻の高生産を示した。また,トコフェロールの組成が現在の海洋生物の組成とは異なっていることを示し,その続成生成物の生成過程を詳細に検討した。さらに,蛍光顕微鏡と透過顕微鏡を用いて,白亜紀では記載例が少ない微小なアクリタークを観察し,形態的に分類してその組成を見積もり,南東フランスの基礎生産者復元を別のアプローチで行なった。以上の研究成果は,閉鎖的なテチス海域と開放的な太平洋域におけるそれぞれのOAE発生時の基礎生産者や環境変動を議論する上で重要な成果であり,今後の地球温暖化に対する海洋ごとの海洋基礎生産者の応答を理解する上でも有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初は,北海道・苫前地域における朱鞠内沢と大曲沢の堆積岩試料を用いたバイオマーカー分析に加え,ケロジェンのサイズ分画法や比重分離法を駆使した新規の分画法の検討,ケロジェンの高分子構造の解明に向けた熱分解分析や化学減成法などの化学分析法のの開発を行ない,実際に南東フランス・ボコンティアン堆積盆のOAE層準堆積岩のケロジェン試料を用いて分析を開始する予定であった。しかし,平成26年度は苫前地域堆積岩のバイオマーカー分析と南東フランス堆積岩中の極微小な海生有機質微化石(アクリタークなど)の顕微鏡観察の解釈に念頭をおいたため,ケロジェンの化学分析については,手法開発の準備を行なった状況であり,まだ明確な成果が得られていない。加えて,2回の英語での口頭発表を含めた学会発表を行ない,国内外の研究者との活発な議論をしたものの,論文執筆については予定より非常に遅れている。しかしながら,苫前地域堆積岩のバイオマーカー分析によって得られた成果に関する論文を執筆・投稿し,それらから今後の研究に更なる発展性が見受けられた。 また,2014年12月~2015年1月にインド洋・ベンガル湾おやびアンダマン海でのIODP Exp.353掘削航海にも乗船研究者(Sedimentlogist)として参加し,白亜紀から現代における古環境・古生態系復元に有用な海洋底堆積物コア試料を得た。今後の研究において,これらの試料を用いることで海洋基礎生産者の環境変動に対する応答をより詳細に理解することができると期待でされる。加えて,国際航海に参加したことにより英語力を鍛え,海外の研究者とも交流を持つことができた。今後の研究において今回の航海で得られた経験・成果は非常に重要なものとなるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成27年度は,南東フランスと北海道・苫前地域のそれぞれの堆積岩試料から分離したケロジェンを用いて,分画法の開発を行ない,熱分解や化学減成法を駆使した高分子構造の解明を目指す。特に海生ケロジェン(海生アモルファス有機物,アクリターク)に注目した古環境・古生態系の指標を提案することで,白亜紀・超温室世界における海洋基礎生産者の情報をより詳細に検討する。それに関連して,8-9月にドイツ・ハノーファー大学を初めとしたヨーロッパの数か所の微古生物・有機地球化学の研究室を訪問し,ケロジェン観察(特にパリノファシス分析とアクリターク分析)とその化学分析についての研究方法や得られている成果に関する議論をすることで,それらに関係した論文執筆の準備を行なう予定である。また,国内では5月のJpGU連合大会(幕張),8月の有機地球化学会(北海道大)など,国外では8月のGoldschmidt 2015(チェコ・プラハ)においていずれも学会発表を行ない,白亜紀海洋無酸素事変期の堆積岩を用いたバイオマーカー分析およびケロジェン分析でこれまで得られた成果を数報の国際誌に投稿する予定である。加えて,平成27年度に得られた研究成果と今までの成果を総合的に解釈することにより,本研究のまとめを行なうことで,北海道大学での博士号取得を目指す。さらに,平成26年度に参加したIODP掘削航海試料に関しては海洋無酸素事変期の試料は得られなかったが,海洋基礎生産者の変動を復元に適した試料であるため,試験的にバイオマーカー分析とケロジェン分析を行ない,有用な結果が得られれば本研究の成果に付け加えて公表する予定である。
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