研究課題
本研究の目的は、多民族農村に暮らす人びとの日常生活の視点から、民族間の生業形態の違いについて明らかにし、その違いが農村内における相互扶助にどう関連しているのか検討することである。本年度の前半には、調査地であるザンビア北西部州S地区における世帯の生業形態の相違と多民族農村の形成過程、農村内にみられる民族間の社会関係の構築・維持の3点に関してこれまでの調査結果から考察し、その成果を、ザンビア大学やラオス国立大学で開催した国際研究集会等で発表し、成果報告書として出版した。また後半には、主食食料が不足する端境期における食料の確保状況に関する調査と、生業形態の違いに起因する耕作地の分布の違いについてGPSを用いた調査を実施した。カオンデの領域であるS地区には、カオンデのほかにルンダ、ルバレ、チョークウェ、ルチャジの人びとが居住している。カオンデ以外の人びとは、移住者である。その移住経路はさまざまであるが、ほかの農村から移住してくるケースと都市から移住してくるケースに分類することができる。とくに都市から移住してくる場合には、民族や親族関係ではなく、都市居住時代の友人関係を頼っているケースが多くみられた。これまでの調査から、カオンデの人びとはモロコシやトウモロコシを栽培し、ルンダやルバレ、チョークウェ、ルチャジの人びとは、キャッサバを積極的に栽培していることがわかっている。本年度はこのような栽培作物の違いが、端境期における食料確保に寄与していることを検討した。とくにモロコシやトウモロコシが不足すると、カオンデの人びとは他民族の知人からキャッサバを入手して、食いつないでいた。多民族農村に暮らす人びとは、親族や民族関係だけにこだわらず、友人関係のように多くの近隣の人びととも人間関係を築いている可能性が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ザンビア大学とラオス国立大学で開催した国際研究集会や日本地理学会等で研究発表し、現地調査を計2回、約3ヶ月にわたって実施できた。現地調査を実施しながらこれまでの研究成果を多くの場で発表し、議論できたことで、研究の方向性について多くの知見を得ることができた。そのため、おおむね順調に進展していると考えている。
今後は、本年度の成果である多民族農村における食料確保をめぐる社会関係に関してまとめようと考えている。また多民族農村が形成された背景について、個人の移住史だけから検討するのではなく、当該地域における国家政策の変遷や植民地統治の影響などについて、文献調査を進める予定である。S地区における事例をとおして、アフリカ農村における多民族共生の仕組みについて模索していきたいと考えている。
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太田至編「アフリカ紛争・共生データアーカイブ」
巻: 第1巻 ページ: 99
巻: 第1巻 ページ: 100
福島直樹・原将也・成澤徳子編「2013年度国際研究発信力強化プログラムリサーチC&M報告書ラオス・ザンビア農村における生業と社会的ネットワークに関する研究―農作物と生活用品のやりとりを中心に」
ページ: 14-25
アジア・アフリカ地域研究
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Ohta, I., Oyama, S., Sagawa, T. and Ito, Y. (eds.) African Potentials 2013 : Proceedings of International Symposium on Conflict Resolution and Coexi stence.
ページ: 190