研究課題
これまでに、予備的な実験により、ABCA1発現細胞をトリプシン処理すると、ABCA1の細胞外ドメインが切断されていると同時に、培地中にコレステロールが放出されることを見出した。この結果は、AB6A1の細胞外ドメイン内に、輸送されたコレステロールが蓄積していることを示唆している。一方で、全反射蛍光(TIRF)顕微鏡を用いた解析により、ABCA1はHDL産生途上で一時的にダイマー化し、細胞膜上で停止するという特異的な挙動を示すことが明らかとなった。以上のことから、ABCA1はATP加水分解に伴ってコレステロールを輸送し、細胞外ドメイン内に溜め込むとともにダイマー化するという仮説をたて、ABCA1のダイマー化の生理的意義を明らかにすることを目的として研究を進めた。ABCA1と最もアミノ酸配列相同性の高いタンパク質であるABCA7をTIRF顕微鏡で観察したところ、ABCA7はABCA1とは異なり細胞膜上を自由拡散することがわかった。ABCA7とのアミノ酸配列の比較から、ABCA1のダイマー化に関わるドメインを探索し、C末端付近の3つのロイシン残基をすべてアラニンに置換した結果、ダイマー化しないABCA1変異体であるABCA1-3LAの作製に成功した。その後、Alexa蛍光色素を付加したapoA-1とBOD1PY蛍光団を付加したコレステロールを用いた蛍光ゲル濾過クロマトグラフィー解析により、ABCA1はサイズの異なる2種類のHDLを産生する一方で、ABCA1-3LAは小さいサイズのHDLを主に産生することを示した。以上の結果から、ABCA1のダイマー化は大きいサイズのHDLの産生に必要であることが示唆された。以上の結果は、HDL産生におけるABCA1のダイマー化の意義を初めて明らかにしたものである。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、A8CA1の細胞外ドメインへのコレステロール蓄積を直接的に証明することを目的としていた。しかし本年度では、HDL産生におけるコレステロール蓄積の次のステップであるABCA1のダイマー化を見出したことと、ダイマー化が産生されるHDLのサイズに影響するという生理的意義を見出すことに成功した。以上の研究成果は、ABCA1によるHDL産生メカニズムの解明に大きく貢献するものであり、当初の計画以上の進展であった。
ABCA1の細胞外ドメイン内へのコレステロール蓄積、およびそれに伴う構造変化がダイマー化に必要であれは、ABCA7の細胞外ドメインをABCA1に入れ替えたキメラタンパク質はダイマー化する可能性がある。また、ABCA1-3LA変異体の解析から、ABCA1のC末端付近の配列がダイマー化に必要であることがわかっている。そこで、ABCA7の細胞外ドメインとC末端付近をそれぞれ単独、または両方をABCA1のものに入れ替えたキメラタンパク質を作製し解析する。
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