研究概要 |
当該年度では, 安定なコントローラによるH-infinity制御理論の基礎的な研究を行った. H-infinity制御は数学的モデルと現実のシステムの誤差を考慮する代表的な制御手法であるが, 通常のH-infinity制御理論を用いて設計されるコントローラは不安定になりうる. 不安定なコントローラは, H-infinity制御で対処することができないセンサの故障やアクチュエータの飽和に対して脆弱であり, 安定なコントローラのみを設計するH-infinity制御理論が近年注目を集めてきた. これまで, 主に集中定数系によって記述されるシステムに対して, その理論は発展してきたといえる. 一方でネットワークの発展に伴い, 入力や出力に時間遅れをもつシステムを制御する必要が多くなってきた. しかし依然としてそのむだ時間系と呼ばれるシステムに対して安定なH-inifnityコントローラの効率的な設計法は十分に研究が進んでいない. 本研究では, skew Toeplitzアプローチと呼ばれるH-infinity関数の作用素論的な補間理論を用いた. これによりH-inifnity制御の中でも基本的な問題である, 感度低減化とロバスト安定化という2つの制御指標を達成する混合感度低減化問題を安定なコントローラのみを用いるという枠組みで解くことができた. 提案手法は安定なH-infinityコントローラの設計に初めて作用素論的な補間理論を導入した先駆的な基礎研究である. 従来手法は, 一旦H-inifnityコントローラを設計してからそれが安定であるか確かめるという間接的なものであり, 所望の安定なコントローラを設計するために計算コストが多くかかってしまう. それに対して提案手法では安定なコントローラを行列計算のみで設計できるという計算上のメリットがあり, 数値例を通じてその優位性を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の目的はH-infinity制御指標を達成する安定かつ低次元なコントローラの理論的構成であった. 本研究では安定なH-infinityコントローラの設計手法を提案したものの, それに加えて低次元なコントローラを求めるまでには至っていない. しかし安定な分布定数系を低次元化するための手法は古くから知られており, その知見を用いることで, 安定かつ低次元なコントローラによって所望のH-infinity制御指標を達成することができる. したがって当初の予定通り, 研究は順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
研究を進めるに伴い, 安定なコントローラはセンサの故障やアクチュエータの飽和だけでなく, パケットロスの影響も受けにくいことが判明した. 計画段階では安定なコントローラの応用として熱交換システムを考えていたが, 近年注目を集めているネットワークを介したシステムに対して提案手法を応用する予定である. そのために, ネットワークを介したシステムの時間遅れの特徴を調べるだけでなく, サンプリング・量子化などの当該年度で扱わなかったいわゆるデジタル化についても研究を進めていく予定である.
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