研究概要 |
本年度の研究成果は, 主に数値的半正直線束の最小特異計量に関するものである. 複素代数多様体と呼ばれる高次元の図形の分類を考える上では, その上の直線束の研究が重要である. 特に数値的半正直線束の最小特異計量の発散についての研究は, 所謂アバンダンス予想の複素解析幾何学的な類似に相当する. 本年度の研究で, この最小特異計量の発散が, その直線束によって特徴づけられるある部分空間の近傍の複素解析的構造と密接に関係することが分かった. より詳しく述べると, 本年度の研究成果は「近傍の複素解析的な構造が簡単である場合」と「近傍の複素解析的な構造が複雑である場合」の二種類に別れる. 「近傍の複素解析的な構造が簡単である場合」には, 数値的半正直線束の最小特異計量は発散せず, 半正曲率を持つ滑らかな計量を持つことを示した. この応用として, ザリスキーにより二次元射影空間の12点爆発上に構成された数値的半正直線束の例に関して, それが半正曲率を持つ滑らかな計量を持つことを示した. また「近傍の複素解析的な構造が複雑である場合」には, 数値的半正直線束の最小特異計量は必ず発散し, 従って半正曲率を持つ滑らかな計量を持ち得ないことを示した. このような例はこれまでデマイリー・ぺ夕ーネル・シュナイダーにより構成された例が一種類知れれているのみであったが, この成果の応用として, 半正曲率を持つ滑らかな計量を持ち得ない数値的半正直線束を数多く見つけることができた. またこの技法を応用することで, 強数値的半正と呼ばれる性質を持つ直線束であって, 半正曲率を持つ滑らかな計量を持ち得ないような例をも見つけることができた.
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