研究実績の概要 |
滑らかな複素代数多様体上のネフ直線束上の半正曲率を持つ(特異)エルミート計量に関する研究, 特に極小特異エルミート計量に関する研究を行った. 手法としては上田理論の応用を研究した. 上田理論は複素曲面に埋め込まれた滑らかなコンパクト曲線の近傍の複素構造の非自明さ反映する理論である. まず前年度の, ある種のネフ直線束が半正でないための十分条件の一つを上田理論の言葉を用いて記述し, その場合の解析的な乗数イデアル層を決定した, という結果の応用についての研究を行った. また, 上田理論自体の一般化についての研究も行った. 上田理論の設定に於いて, 部分多様体がなめらかな超曲面であるという過程が重要である. その内まず, 上田理論の高余次元化についての考察も行った. その応用として, 三次元射影空間の8点爆発の反標準束が半豊富でないが半正となる一つの十分条件を得た. この具体例は, 8点の配置が十分に一般的である場合に, Totaro氏の問題に関連する病的な振る舞いをすることがLesieutre氏・Ottem氏によって指摘されているという点で興味深い. ここで得られた十分条件と, 上記結果とを合わせることで, Totaro氏の問題の複素解析版にあたるような病的な例をも与えるような8点配置の存在も証明することができた. さらに, 部分多様体が特異性を持つ場合の上田理論についての研究も行った. オリジナルの上田理論に軌道体的な考察を加えることで, 特異点が簡単なものである場合について結果を得, その応用として複素射影平面の9点爆発についての考察を行った.
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今後の研究の推進方策 |
今後の数値的半正直線束の最小特異計量の研究に於いては, 近傍の複素解析幾何の理論の深化が中心的な課題となるべきことが今年度の研究から明らかとなった. そのためには大別して, 上田理論の高余次元化・特異化の二方向への一般化という難しさがある. この二方向ともに今年度既に(簡単な場合については)理論の一般化に成功しているので, 今後はこれらの技術を組み合わることで研究を推進する.
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