研究概要 |
昆虫にとって「触角」は聴覚や嗅覚, 触覚など, 環境情報を得るために重要な感覚器官であることに加え, 配偶者選択の際に重要な役割を果たす器官でもある. 特にアリは嗅覚に依存した個体間コミュニケーションを行うが, 伝達される情報や行動様式の性差を反映するように触角形態に顕著な性差がみられる. しかし, ハチ目昆虫の性的二型についての分子発生学的知見はほぼ皆無であり, その至近要因は未解明である. また, モデル生物を用いた研究から, 性的二型の発現は性決定カスケードが形態形成因子の発現を制御し, さらに下流の発生制御因子の発現を制御することにより生じると考えられるが, 実証研究は少ない. そこで本研究では性的二型の進化と社会性の進化とのリンクを明らかにするために, まずはトゲオオハリアリDiacamma sp.における顕著な性的二型の発現制御機構の解明を目指す. 本研究ではまず, 触角形態の性差発現を制御する遺伝子を探るため, モデル生物で知られる性決定遺伝子や付属肢形成に関わる遺伝子, 体節形成に関与する遺伝子など計21候補遺伝子の触角における発現量・発現局在を雌雄で比較した(real-time定量PCR, 免疫染色法, in situ hybridization法). その結果, 触角での遺伝子発現量に有意な雌雄差が見られる遺伝子をスクリーニングすることができた. これらの遺伝子は性特異的形質の発生制御への関与が示唆された. 次に, 発現動態に性差が見られた性決定遺伝子や形態形成遺伝子によって性特異的形質の発生が制御されるかどうか確認するために, 幼虫期のRNAiによる候補遺伝子のノックダウンを試みている. 今後は性特異的形質の発生制御への関与が示唆される遺伝子をノックダウンし, 性決定機構と形態形成機構のリンクを担うシグナル経路や, そのさらに下流で細胞増殖の制御やパターニングにより触角形態の性差を生み出す形態形成機構の特定を試みる.
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