研究課題/領域番号 |
13J02879
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
三浦 桃子 北海道大学, 大学院生命科学院, 特別研究員(DC2)
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キーワード | バイオロジカル・モーション / インプリンティング / ニワトリ / 運動視知覚 |
研究概要 |
主要な関節を光点に置き換えた単純な動画から、生き生きとした人の姿が知覚されるという現象をバイオロジカル・モーション(BM)と呼ぶ(Johansson 1973)。ニワトリの初生雛(ヒヨコ)は生得的にBM選好性を持つと報告されている(Vallortigara 2005)。また研究者代表は、ヒヨコのBM選好性が動画を経験することによって誘導されるが、誘導のされ方に性差があることを発見した。 本年度はヒヨコのBM知覚の適応的意義を明らかにすることを目的とし、BM性が幼若期刷り込みの色記銘を強めるかを検証した。初めに、トレーニングで赤色のBMと緑色のnon-BMを刺激として交互に示した群と、色を逆にした群を用意し、2色間の二者択一テストを行った。また、naiveでも同様のテストを行った。BM性が選択的に幼若期刷り込みの色記銘を強めるならば、BMの色を選好するようになると予測した。結果、BMが赤色である群は赤を選好した。しかし、予想に反してBMが緑色の群も赤色を選好した。Naiveは色の選好性を示さなかった。光点動画はBM、non-BMともにヒヨコの色に対するpredispositionを誘導すると考えられる。 次に、光点動画での刷り込みが可能であるかを上記のpredispositionと分離して改めて検証した。トレーニングの刺激に赤色と黄色のカラープレートを用いた群をそれぞれ用意し、二者択一テストを行った。いずれの群もトレーニングに用いた色に選好性を示し、その強さに有意な差はなかった。さらに、赤色と黄色のBMを用いた群それぞれ用意し、二者択一テストを行った。BMを用いた群もトレーニングに用いた色に選好性を示した。また、トレーニング時の歩行量がカラープレートの群より多かった。また、詳細な解析はまだ行っていないが、BMを用いた群では赤色と黄色で結果の傾向が異なっていた。 以上の結果より、BM性が幼若期刷り込みの色記銘を強めるとはいえないが、光点動画を用いると①色記銘が可能であること、②ヒヨコの運動量を増加させること、③ヒヨコの色に対するpredispositionを誘導することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的はヒヨコのBM知覚の適応的意義を明らかにすることである。BM性が幼若期刷り込みの色記銘を強めるという当初の仮説は否定されたが、運動性を持つ視覚刺激が幼若期の記憶形成のみならず、ヒヨコの活動性を上げ、predispositionの誘導により意思決定に複雑な関与をしていることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
刷り込みでは、歩行量が多いほど強く刷り込まれることが知られている(Hess 1958)。また近年、脳内のc-fos発現量が刷り込みの強さと相関するが、ヒヨコの歩行量とより強く相関したこと(Yamaguchi et. a1. 2010)が報告されている。さらに、強く刷り込まれたヒヨコはそうでないヒヨコより脳内のT3量が多く、T3投与により感受性期が閉じた後の刷り込みが可能になること(Yamaguchi et. al. 2012)が報告された。また、光照射ではT3量が上昇しないことも同時に報告されている。ヒヨコの幼若期の記憶形成はT3によって支配されており、T3の発現にヒヨコの運動量が関与する可能性が考えられる。光点動画に曝されてヒヨコの歩行量を増加すると、T3量が増加してより強く刷り込まれるかもしれない。歩行によるT3量の変化を測定し、この可能性を検証していく。現段階では、光点動画がBM性を持つか否かを分離していないので、ランダムモーションなどnon-BMを用いてこれを分離する必要がある。
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