研究課題
ケトーエノール互変異性体を有するグアニン塩基は核酸塩基の中でも最も励起寿命の短い分子として良く知られる。これは生体中で最安定構造であるケト体においてサブピコ秒からフェムト秒オーダーの極めて速い緩和過程が存在することが主な原因である。従って、このケト体を光によって観測する手段は限定的であり、ケトーエノール互変異性体の存在比の議論は極めて困難であった。そこで本研究では、グアニン塩基に新たな発色団(ナフチル基)を導入した核酸塩基誘導体(GNap)を合成し、孤立気相状態でのUV吸収およびIR吸収スペクトルの測定を試みた。これにより、励起波長の異なる互変異性体を同一の条件で観測し、質量選択的なスペクトルを測定することが可能となる。フランス原子エネルギー研究所(CEA Saclay)の装置を用いてこの試みを行ったところ、ケト体のみのIR吸収スペクトルを初めて測定し、その象徴的な振動であるC=O伸縮のバンドを初めて観測することに成功した。またナフタレンのS2励起状態を利用することにより、その互変異性体の存在比が2:1であることを初めて明らかにした。これらの結果は、これまでの手法では知ることのできなかった極めて重要な知見であり、ナフチル基を発色団として用いるこの手法の有効性を強く支持する。また本年度に確立できたこの方法論は、核酸塩基が示す分子認識能を観測するための基盤技術と成り得る。これまで核酸塩基対のUV吸収はブロードなスペクトルとして観測されることが一般的であり、様々な塩基対の構造を分離して、その構造の安定性を実験的に議論することは極めて困難であった。しかし、この方法論では塩基対においても構造選択的な観測が可能であり、塩基対形成の安定性を一分子レベルで正確に捉えることが可能になる。これにより、より高い分子認識能を持つ塩基対を創出するための基礎的知見を得られると期待している。
本研究課題は翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Journal of Physical Chemistry B
巻: 118 ページ: 4851-4857
10.1021/jp502635w