研究概要 |
電子軌道形状の精密測定手法の確立を目的とし, 以下のアプローチをおこなった。 【1】数サイクル強レーザーパルスを用いた分子軌道可視化法の評価のため, 従来用いられてきたMO-ADKモデルよりも厳密な取扱いである弱電場漸近理論に基づいたトンネルイオン化レートの計算をおこなった(電気通信大学森下亨准教授との共同研究)。その結果, 電子基底状態のNO分子のトンネルイオン化レートはレーザー偏光方向に対して45°方向にピークを示したのに対し, 電子励起状態のNO分子では0°方向にピークを示し, 実験結果と良い一致を得た。 【2】これまでの分子軌道可視化の研究では, (1)分子トンネルイオン化および(2)分子解離によるフラグメントイオンの生成を単一のレーザーパルスでおこなっている。分子軌道情報のより精密な読み出しのため, これら2つの過程を(i)直線偏光パルスによるイオン化と(ii)円偏光パルスによるクーロン爆発に分離した2パルス運動量画像計測法の実証実験をおこなった。その結果, NO分子のクーロン爆発過程によって生成したフラグメントイオンにおいてレーザー偏光方向に対して45°方向に明瞭なピークを持ち, 分子軌道形状を反映した異方性が観測された。他の分子についてもこの手法で分子軌道の情報を取り出すことが可能であることが示唆された。 【3】従来の時間分解能(0.5ns)と比べ, 20倍の時間分解能(25ps)を持つ運動量画像計測装置を立ち上げ, 光電子の3次元運動量画像計測が可能となった。しかし, この装置を用いた計測により, 2次元運動量画像では観測が不可能であった飛行時間軸方向とレーザー偏光方向を含む平面で切り出した光電子の運動量画像に歪みが確認された。現在, これを解決するためにイオン光学設計ソフトを用いて, 新たなイオン・光電子引き出し電極の設計をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 2パルスレーザー軌道可視化法の実証実験およびパルス計測システムの立ち上げ, 高時間分解能を持つ運動量画像計測システムの立ち上げをおこなった。特に2パルスレーザー軌道可視化法の実証実験では, 直線偏光パルスと円偏光パルスを組み合わせることでより精密な分子軌道情報の読み出しが可能になっただけでなく, この手法が様々な分子に適応可能であることが示唆された。また, 電気通信大学森下亨准教授との共同研究により, 弱電場漸近理論を用いたトンネルイオン化レートの理論計算をおこない, 複数の理論で実験と良い一致を得た。
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今後の研究の推進方策 |
非対称電場(ω+2ωパルス)を導入し, これまで用いていた対称電場では読み出せない非対称分子軌道情報の読み出し法の確立を目指す。まず, 電場の影響を強く受けると考えられる光電子の運動量画像計測をおこなう。必要に応じて, レーザー位相ロックシステムを導入する。一方, 光電子の3次元運動量画像計測によって明らかとなった画像の歪みは, 主に引き出し電極の歪みによるものであると考えられる。正確な軌道情報の読み出しのためには, この歪みを補正する必要がある。今後, 新たな電極の設計をおこなう。
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