平成26年度も当初の計画通り,系列の解体によって役員派遣が解消され,代わりに独立した取締役が増えることで変化した役員構成や経営者の個人的属性が経営指向性にどのような影響を与えるのかを明らかにすべく研究を行った.具体的に行った研究作業は,以下の3つに大別することが出来る. 第1に,企業の役員が経営志向性に与える影響について既存研究はどのように議論してきたのかを把握し,今後の有望な研究領域を明らかにした文献レビューの作業である.具体的には,時間の経過と共に不規則に変化する経営者の心理的要因に注目することが今後の有望な研究領域であり,妥当性と信頼性,メカニズム解明のためには,それを複数の代理変数で操作化することが必要であることを議論した.この成果は,査読付学術論文として『一橋商学論叢』への掲載が決定している.第2に,このレビューにもとづき定量的な分析を行う上で課題となる操作化の手法を検討する作業である.この成果は『一橋研究』に論文としてまとめられている.第3に,上で挙げた文献レビューの結果と妥当性を検討した操作化の手法を用いて,役員構成と経営志向性の関係を定量的に分析した.具体的には,系列の解体を含む業界再編が進んでいる銀行業界を事例として取り上げ,不良債権処理に与える影響を検討した.その結果,経営者が交代した際に,不良債権は多く処理され,また,外部から来た取締役が多いほど,不良債権が処理されないことが確認された.これは,撤退の意思決定の場に外部者がおり,監視や評価が強くなされているほど,評価者たちに悪い印象を与えたり,責任を追及されたりするのを内部の経営者・経営陣は恐れるため,撤退を決断するのはより難しくなるという理論的予測と一致する結果である.この知見は,日本経営学会関東部会とEGOSで発表された他,ワーキングペーパーとしてまとめられている.
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