研究課題
これまでに作出されてきたヒトiPS細胞由来肝細胞を有したキメラマウスは、ヒト凍結肝細胞を移植した場合と比較して、生着効率が悪いことが問題とされている。そこで本研究では細胞シート工学技術を用いて、ヒトiPS細胞由来肝細胞シートを移植する検討を行った。まず、移植したヒトiPS細胞由来肝細胞の体内分布を調べるため、ヒトiPS細胞由来肝細胞シートを新規肝細胞シート移植法、もしくはヒトiPS細胞由来肝細胞懸濁液を経脾臓移植法により移植した。その結果、ヒトiPS細胞由来肝細胞シートを移植したマウスにおいてはマウス肝臓表面に接着したシート状のHLA陽性ヒト細胞が観察され、その他の臓器にはヒト細胞が観察されなかった。それに対し、ヒトiPS細胞由来肝細胞懸濁液を経脾臓移植法により移植したマウスにおいては、移植標的臓器である肝臓以外にも、脾臓、大腸においてHLA陽性ヒト細胞が検出された。以上の結果から、新機関細胞シート移植法は経脾臓移植法よりも移植細胞の生着位置の制御に優れていることが示唆された。また、移植後のヒトiPS細胞由来肝細胞シートの生体内安定性を評価するため、長期的な観察を行った。レシピエントマウスとして、前述と同様の処置を行ったマウスを用いた。マウス血清中のヒトアルブミン濃度を測定したところ、移植4週目まではマウス血清中ヒトアルブミン濃度が上昇したものの、その後はプラトーに達し、移植8週目まで大きな変化が見られなかった。このことはヒトiPS細胞由来肝細胞が移植直後は増殖するものの、肝障害が治まるにつれて増殖が止まっていくということ、移植されたヒトiPS細胞由来肝細胞はマウス生体内に長期的に生着可能であることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、昨年度に開発した新規肝細胞移植法の評価を行った。その結果、この新規移植法により移植された細胞は目的部位に限局して生着していることが明らかとなった。このことから、この新規移植法はヒト肝キメラマウスの作出のみならず、再生医療への応用も可能であると考えられる。
来年度には、本年度において開発した新規移植法を用いて、TK-NOGマウスに代表されるような肝障害免疫不全マウスにヒトiPS細胞由来肝細胞を移植することで、高い生着効率を示す新規ヒト肝キメラマウスの作製を試みる。
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Cell Transplant.
巻: 24 ページ: 印刷中
http://dx.doi.org/10.3727/096368914X681702
Proc. Natl. Acad. Sci. USA.
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pnas.1413481111