宇宙が始まってから現在の宇宙へと進化するに至る過程で、初期天体形成や宇宙に存在する中性水素が電離する再電離期と呼ばれる現象があり、これらの時期の物理過程を考えることは現代天文学の重要な問題の一つであると考えられている。宇宙の初期天体形成時期や再電離期を探るために、中性水素の超微細構造由来の21cm線放射が有用と考えられている。21cm線シグナルを統計的に探る手法として、輝度温度揺らぎの2点統計量であるパワースペクトルが広く使われている。輝度温度揺らぎの確率分布がガウス分布に従うのなら、その統計的性質はパワースペクトルのみで完全に記述することができるとされている。しかし、天体物理学的な効果によって21cm線シグナルは統計的に非ガウス分布を持つと予想されており、これはパワースペクトルだけでは評価することができない。そこで、本年度の研究では21cm線シグナルの非ガウス性を評価するために、より高次統計量である輝度温度揺らぎのバイスペクトルを導入しその空間依存性や赤方偏移依存性を評価して、パワースペクトルとの違いを調べた。その結果、バイスペクトルはパワースペクトルと異なり、大スケールと小スケールの相関を見ることが出来たり、シグナルが大きくなる特徴的なスケールが存在することを確認した。また、バイスペクトルを用いた再電離モデルパラメータへのFisher解析を行い、これらのパラメータに対してパワースペクトルよりも強い制限を得られることを示した。この結果は、国内外の研究会や学会で発表を行い、また論文としてまとめられ、海外の雑誌(MNRAS)に掲載された。
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