研究概要 |
大腸癌における代謝特性および癌幹細胞の解明を行うにあたり、癌に特異的な好気的解糖を維持する分子であるPKM2に着目した。代謝酵素PKM2は、転写調節因子として作用し好気的解糖を維持するための代謝酵素の発現を上昇させることが明らかにされ、代謝特性を調節する上位のメカニズムとしてPKM2の核内機能の重要性が示された(Luo W. Cell, 2011., Yang W. Nature, 2011)。 従来、PKM2は腫瘍増殖を促進することで悪性度を亢進させると知られていたが、浸潤・転移にPKM2が与える影響は未知であった。癌が浸潤能を獲得する過程で、細胞レベルでは上皮間葉移行(EMT)が生じ、運動能、浸潤能を獲得する。EMTを生じた細胞は癌幹細胞性を有するとも考えられている。我々はまずPKM2の核内での機能とEMTとの関連性を調べることとした。大腸癌細胞株SW48⑪にTGFβ1とEGFを添加しEMTを誘導した。EMTによりPKM2が増加し、PKM2の核内分画も上昇した。PKM2をノックダウンすると、EMT誘導が抑制された。SW480にPKM1とPKM2をそれぞれ過剰発現した細胞株を作成し、EMT誘導効率の差異を確認すると、PKM2過剰発現細胞株においてよりEMT誘導が亢進した。以上より、EMTの誘導にPKM2は必須で、PKM2がEMTへの誘導刺激を増強していると考えられた。続いて細胞の核内において、PKM2が他の蛋白質とどのような相互作用をしているか検討した。Mass-spectrometry解析によりPKM2とTGFβ-lnduced Factor Homeobox 2 (TGIF2)が核内で相互作用することが判明した。TGIF2はTGFβシグナルの下流に位置する転写因子で、この相互作用がEMT誘導能を決定すると考えた。TGIF2をノックダウンすると、EMT誘導がより亢進し、PKM1とPKM2過剰発現細胞株間でのEMT誘導効率の差異が認められなくなった。つまりPKM2とTGIF2が相互作用し、TGIF2の機能が抑制されることがEMT誘導に重要であると考えられた。ChIP PCRの結果、TGIF2はEMTにより発現が抑制されるE-cadherinのプロモーター領域に結合し、EMTシグナルに反応してプロモーター活性を抑制することが示された。この過程にはヒストンアセチル化のエピジェネティック機構が関与していた。
|