本研究の目的は、環境倫理学において推し進められてきた非-人間中心主義の倫理学の新たな展開を探究することで、環境倫理学と応用倫理学全体の学問的意義のあり方を示すことにある。本年度は、異なる問題意識の下で別個に発展してきた環境倫理と生命倫理の接合を試みた。 研究を実施した結果、次のことがわかった。第一に、道徳的考慮の対象となる存在と私たちの関係性に言及する必要があるということ、第二に、内在的価値と道具的価値を対立し合う概念として理解するのではなく、関係的価値として捉え直す必要があるということ、の2点である。1点目は『哲学・科学史叢』 に投稿した論文の中で論じ、2点目は環境哲学国際会議での口頭発表で検討した。さらに、この2つの主張を通して環境倫理と生命倫理の接合がどのような形で可能となるのかについては『現代生命哲学研究』に投稿した論文の中で示した。 以上の成果を出すことができたにもかかわらず、内在的価値と道具的価値の概念分析への着手が遅すぎたため、博士論文を完成するまでには至らなかった。価値の概念分析は応用倫理学とは異なる領域である上に、関係的価値の分析自体が比較的新しい試みであることから、「関係性」という観点を取り入れた道徳的考慮の議論の基盤となる価値論の考察に予想以上の時間を要してしまった。しかし、従来の非-人間中心主義が頓挫した理由が個物の価値に焦点を当てた原子論的発想にあることを示し、それに代わる問題枠組みとして個別間の関係に着目した関係的価値理論という像を描き出すことができたことは、環境倫理学のあり方を考えていく上で大きな貢献となることが期待できる。今後は、内在的価値と道具的価値の概念分析をさらに進めていくとともに、人間と人間でないものたちとの関係性に基づいた道徳的考慮の議論を構築し、環境倫理と生命倫理を統合する枠組みの提示を試みる。
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