研究課題/領域番号 |
13J03082
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 聡美 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 輸送体 / AspT / AAExファミリー / GxxxG / OGMラベリング / 構造変化 / 結晶化 |
研究概要 |
微生物を利用した発酵法による有用物質生産は、これまで細胞内代謝の強化により生産性の増強を図ってきたが、基質の取り込みと排出が律速となり、生産性効率化の足枷となっている。そこで本研究は微生物の物質輸送体系に注目した。一連の輸送メカニズムを解明することで、将来的に発酵産業界における生産性の限界打破を目指す。研究材料はアスパラギン酸(Asp) : アラニン(Ala)交換輸送体AspTである。AspTは産業上有用な輸送体が数多く保存されたAAExファミリーを構成しており、AspTの機能解明は他の輸送体研究においても有益な情報を与えると期待される。基質特異性や輸送速度の改変には、原子レベルでの構造解析が不可欠である。本研究では酵素学的手法に加え、結晶構造学及び熱力学的手法により、基質輸送及び輸送制御メカニズムの解明に挑む。 初年度はその前段階として、①人工二重膜小胞に再構成した精製AspT(システイン―置換変異体)に、放射性標識した輸送基質を取り込ませる輸送活性能測定、②SH基修飾蛍光試薬と精製AspT(同上)を用いたOGMラベリング実験③大量発現株の構築、という3つの酵素学的手法による実験を行った。 ①は放射性基質の取り込み量を測定することで、システインに置換された各アミノ酸残基の輸送活性能を解析し、輸送における各部位の機能・役割を推察した。その結果、GxxxGモチーフに変異を入れた領域では急激な輸送活性能の低下が見られ、この領域が輸送に何らかの影響を及ぼしていることが推察された。②は輸送基質の他、各種阻害剤を添加し、蛍光強度の変化からSH基の挙動を追った。その結果、濃度依存的な蛍光強度の変化、すなわち構造変化を確認できた。現在引き続き基質の種類や濃度による構造変化を解析している。③は結晶化に向け、従来の株よりもより発現量が多い株を作製する為に各種コンピテントセルの検討を行った。その結果、C43 pLysS株が発現量・活性共に高いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上半期は結晶構造解析や熱力学的解析の前段階として、放射性標識した輸送基質を用いた輸送活性能解析及び、SH基修飾蛍光試薬を用いたOGMラベリング実験を実施計画として挙げた。そしてこれらを達成した後、下半期は親水性ループを用いた結晶化スクリーニング及びITCへの移行を計画していた。既に輸送活性能解析に関しては全24変異体についての活性を測定し終わった。しかしラベリング実験に関しては、現在8割方を測定し終わった段階であり、下半期分の計画をまだ実行に移せていない。
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今後の研究の推進方策 |
結晶化には大量発現系・高純度精製系が必要かつ有利である。既に高純度精製系は確立されているが、AspTは膜蛋白質ゆえ、決して発現系が高いとは言えない。そこで現在よりもより高発現・精製できる反応系の確立を目指す。これまでの酵素学的アプローチでは見ることのできなかった基質輸送メカニズムを、結晶化スクリーニング及びITCを用いて解明していく。解析する候補領域はAspT全長と親水性ループ領域である。親水性アミノ酸が多く含まれ、膜蛋白質としては安定的で扱いやすい利点があることから、本年度は親水性ループ領域から着手することを考えている。
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