研究課題
本研究は輸送体の改変により、将来的に発酵産業界における生産性高効率化を目指して微生物の輸送メカニズムの解明を行っている。対象は産業微生物由来アスパラギン酸(Asp):アラニン(Ala)交換輸送体AspTである。これ迄基質透過経路の同定や基質結合部位が基質ごとに異なることを明らかにしてきた。しかし蛋白質工学的手法により基質特異性や輸送速度を改変するには、原子レベルでの構造解析が不可欠である。そこで本研究は酵素学的アプローチに加えて、構造学及び熱力学的アプローチにより、基質輸送メカニズムの解明に挑戦することとした。今年度はその前段階として、1.蛍光試薬を用いたラベリング実験による輸送形態の解明、2.結晶化へ向けた高発現高濃度精製系の改変を行った。1.蛍光色素OGMをAspT第3膜貫通領域のCys残基一置換変異体と反応させ、基質依存的な修飾効率の変化から導入したCys残基の細胞膜における位置を確認した。本研究ではL-Asp結合型、L-Ala結合型の指標となるPro79、Gly62を用いてL-Aspアナログ・D-Asp、L-Cysteic acid(L-CA)、L-Alaアナログ・D-Ala、L-Serine(L-Ser)による基質濃度依存的な構造変化を追った。するとD-AspはL-Aspと、D-Ala、L-SerはL-Alaと同様の蛍光パターンと輸送形態を示した。一方、L-CAはいずれにも相当しない蛍光パターンを示すもL-Aspと同様の輸送形態を示した。2.結晶化には高濃度・高純度の蛋白質が必要である。申請書の通り、現在のAspTでも高純度で、濃縮をすれば高濃度にすることも可能だが、元々蛋白質回収量が少ない上、濃縮することで更に回収率が低下、最終的に手元に残る蛋白質量は結晶化には足りないことが明らかになった。そこで更なる高発現・濃度を目指し、培養から精製までの各種条件を見直した。その結果、結晶化に挑むことができる精製AspT量を取得可能となった。2.結晶化へ向けた研究は後輩の指導・アドバイスの面で関わった。
2: おおむね順調に進展している
プロテオリポソームを用いた Kinetics 解析と、Cys 反応性蛍光修飾試薬 OGM を用いた Conformation 変化解析を組み合わせて、輸送体 AspT の基質結合による構造変化を解析した。その結果、Asp 結合状態の AspT は Ala への親和性が低下し、逆に Ala 結合状態の AspT は Asp への親和性が低下することを証明した。結果として、AspT には基質が結合しないアポ状態、Asp 結合状態、Ala 結合状態現の少なくとも 3 種の構造状態が存在することを明らかにした。これらの成果は、投稿論文原稿も完成し、J. Biol. Chem に投稿直前である。また、学会発表も順調に行ってきた。結晶化には大量発現系・高純度精製系が必要かつ有利である。既に高純度精製系は確立されているが、AspTは膜蛋白質ゆえ、決して発現系が高いとは言えない。そこで昨年よりもより高発現・精製できる反応系の確立を目指すことを目標の一つに掲げた。検討の結果、結晶化に挑戦可能な蛋白質量を回収することに成功し、本年度はいよいよ結晶化に着手できる。これまでの酵素学的アプローチでは見ることのできなかった基質結合構造の取得や、基質安定剤の探索を行い、更なる共役基質輸送メカニズムを明らかにしていく。
共役輸送メカニズムを明らかにするため、①酵素学的アプローチ、②熱力学的アプローチ、③構造学的アプローチを実行する。①酵素学的アプローチ;人工的にリン脂質二重膜小胞に AspT を封入したプロテオリポソームと放射性基質を用いて、ヘテロ (Asp:Ala) 交換輸送によるキネティクス解析を実施する。これまではホモ (Asp:Asp、Ala:Ala) 交換輸送におけるキネティクスパラメータの算出を行ってきたが、本年度はいよいよヘテロ交換に着手し、Asp:Ala 交換輸送の本質に迫る。②熱力学的アプローチ;AspT (変異体含む) に一定の熱をかけ、HPLCまたは蛍光色素を用いた安定性試験を行う。熱安定性の高い条件や変異体は結晶化に有利であるため、安定性を維持できる濃度条件や基質の種類の探索、AspTホモログを有する高熱性細菌のスクリーニングを行う。また ITC から熱力学パラメータの算出も行う予定である。③構造学的アプローチ;結晶化に挑み、基質が結合した状態の構造をとる。AspTの構造を視覚的に得ることで、今後はより核心に迫ったミューテーションや変異体を用いた①酵素・②熱力学的アプローチに期待ができる。結晶化は親水性の高いループ領域から着手し、スクリーニング条件の探索を行う。ループ領域の結晶化条件を参考に、疎水性が高く結晶化が難しいAspT全長にも挑戦する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Pros One
巻: 9 ページ: ‐
10.1371/journal.pone.0112874