離散可積分系について、可積分性判定の観点から研究を行った。用いた主な道具は、特異点閉じ込め、代数的エントロピー、Laurent現象、互いに素条件、初期値空間などである。 まず、特異点閉じ込めを通過するにもかかわらず非可積分となるような方程式について調べた。そのような方程式は、2階の常差分方程式ではHietarinta-Viallet方程式をはじめとして数多くの例が知られていた。今回、偏差分方程式において初めてとなる具体例を構成することに成功した。さらに、新しく発見した方程式を、昨年度まで研究していた互いに素条件を用いて解析した。その結果、特異点パターンに基づいた従属変数変換によって得られる方程式は非常に複雑な定義式を持つものの、Laurent性、既約性、互いに素条件など非常に良い性質を持っているということがわかった。ここで用いた手法は可積分方程式を特異点パターンに応じた変換によって双線形化するという手法の一般化となっており、一部の非可積分な偏差分方程式においてもこの手法が有効であるということがわかった。なお、今回得られた方程式はreductionによって高階の常差分方程式へと落ちるが、従属変数変換自体もそのまま対応する。 続いて、自励系とは限らない2階の差分方程式を、初期値空間を用いて解析した。初期値空間を持つような2階の方程式の一般的性質を調べるとともに、そのような方程式の分類を試みた。その結果、2階の可積分非自励差分方程式であって初期値空間を持ち、なおかつ次数増大が非有界となるものは、坂井の意味での離散パンルヴェ方程式に限るという結果が得られた。
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