MOS-FET、IGBT等のパワーデバイスの高耐圧化を目的として、誘電率が高い(High-k)材料をゲート絶縁膜に適用して膜厚を厚くすることが検討されている。High-k材料の一つであるYAlO3は、誘電率とバンドギャップエネルギーが高く、さらに昨年度の研究からLaAlO3より熱や光に対して安定であることが分かっているため、ゲート絶縁膜材料として有望である。一方、昨年度の研究からは、イオン照射を行うと、結晶性の低下に加え、格子間隔変化によるXRDピーク位置シフト、局在準位生成によるバンドギャップ近傍の光吸収増加が起こる事も分かった。そこで、本年度は、これらの変化がフォトルミネッセンス(PL)に如何なる影響を及ぼすか調べた。 本材料からは、不純物としてのCr3+、Er3+、格子欠陥としての酸素空孔、自己束縛励起子(STE)、アンチサイト欠陥など多種の欠陥によるPLが見られる。そのうち、STE、Er3+、アンチサイト欠陥のPLはイオン照射を行うと完全に消滅する。これらのPLは、伝導帯付近の準位からの電子の遷移に起因して生じる。よって、イオン照射によりバンドギャップ近傍に局在準位が生じると、それがPLを生じる準位を覆い隠すために発光が消える。一方、Cr3+のPLは、強度が減少するものの消滅はしない。このPLは、Cr3+が酸素原子による8面体配位子場中に存在することにより、3d軌道の縮退が変化してR-line準位が出現した結果、生じる発光である。よって、結晶性低下に伴い配位子場が崩れることによりPL強度が減少する。また、これらのPLと対照的に、結晶性と関係なく生じる酸素空孔のPLは、結晶性が低下しても強度減少しない。以上のように、イオン照射により受ける影響は、PLを生じる欠陥の存在形態や電子遷移の種類によって異なることが明らかになった。
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