銅酸化物超伝導体は、ホールドーピング、電子ドーピング双方をすることが出来、ゼロドープの場合には反強磁性絶縁体でありドーピングにより超伝導が発現すると考えられていた。超伝導転移温度Tcが100Kを超えるのはホールドーピングの場合であり、電子ドーピングの場合には最大でもTcは30K程度である。両者で結晶構造は異なるが、共に銅と酸素から成る2次元面上で超伝導が発現していると考えられている。近年、電子ドープ型の銅酸化物超伝導体は、ゼロドープでも絶縁体ではなく超伝導が発現することが報告された。 我々は、電子ドープ型銅酸化物超伝導体のゼロドープ超伝導を説明するため銅と酸素の軌道を考慮した3バンドのハバード模型(d-p模型)の基底状態を変分モンテカルロ法により調べた。この模型は銅と酸素のサイト間の一体のポテンシャル差Δが小さく、ゼロドープの場合には基底状態が反強磁性絶縁体にならないと考えられており、そのときに超伝導状態が安定化する可能性を調べた。特に、反強磁性とd波の超伝導の試行波動関数によるエネルギーの比較を行った。d-p模型は軌道自由度を持つ系であるため、試行波動関数に含まれる変分パラメータの数が必然的に増える。我々は100万個以上の変分パラメータを導入し、軌道の自由度を十分に取り込んで計算を行った。ハミルトニアンに含まれるパラメータとしては銅サイトと酸素サイト間の跳び移り積分tpdをエネルギーの単位として、Δ、銅サイト上のクーロン斥力Ud、最近接の酸素間の跳び移り積分t’、ドープ率δを考慮する。 結果として、銅酸化物超伝導体で実現していると考えられているパラメータ領域では反強磁性状態の方が超伝導状態に比べてエネルギーが低いことが分かった。つまり、ホールドーピング、電子ドーピング共に実験で超伝導が観測されているドープ率でも反強磁性状態の方がエネルギーが低いという結果になった。
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