研究課題/領域番号 |
13J03136
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
片山 なつ 日本女子大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 制約解放 / 形態多様化 / 種分化 / 地理的隔離 / 塩基置換速度 / 分子進化 / カワゴケソウ科 |
研究概要 |
本研究は、急流域の岩の上という被子植物にとって極限ともいえる特殊な環境に生育するカワゴケソウ科植物を用い、極限環境下における制約解放がもたらす種形成・多様化機構を解明することを目的としている。そのために第一年度は、1. 集団遺伝学的解析による本科の集団構造と分布拡大過程の解明、2. 制約解放による形態多様化の基盤となった分子進化を検出するために分子進化学的解析をおこなった。 1の解析より、集団間の遺伝的距離は地理的距離あるいは水系の違いにより拡大する傾向が見出された一方、同一河川内における近距離の集団間においても著しい遺伝的分化が確認された。このことは、集団の隔離が強いことを示唆するとともに、定着後の遺伝的交流が少なく近隣の集団間でも遺伝的分化が引き起こされる可能性を示している。よって、本科植物が河川急流域という局所的な環境において地理的に隔離され、その後の種分化が引き起こされる「飛び石的な分布拡大と種分化」を繰り返していることを示唆する結果を得ることができた。 次に2の解析より、科内でも派生的な分類群に属するZeylanidium lichenoidesでは、近縁種よりも分子進化速度が上昇しており、ほぼ中立的な変異と考えられる同義置換率が高くなっていることが明らかとなった。このことは、本科内で変異の蓄積速度が上昇した可能性を示唆する。 以上の結果は、分布拡大パターンや塩基置換速度の上昇が、本科植物の多様化に寄与した可能性を示唆し、形態多様化を押し進めた背景を解明するための基盤となるデータを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、カワゴケソウ科植物をもちいて、植物の種分化と形態多様化を押し進めるメカニズムを検証することを目的とし、本年度は当初の仮説を支持・発展させる結果 : 1. 局所的な環境における地理的に隔離された分布拡大、2. 科内における分子進化速度の上昇、を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
第一年度に得られた結果を基にして、さらに発展的な解析を行ない、カワゴケソウ科の形態多様化の背景に制約解放がどのように関わっているかを検証する。 1. 集団遺伝学的解析による本科の集団構造と分布拡大過程の解明については、解析に使用する分子マーカー数を増やすことで、集団サイズや集団間の遣伝的交流の程度を検証する。 2. 形態多様化の基盤となった分子進化学的な解析については、塩基置換速度の上昇が検出された分類群においてサンプル数を増やすことで、1つ1つの遺伝子が受けた選択圧の検出を試みる。
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