研究課題
本研究の目的は,光吸収体に短パルス光を高エネルギーで照射することで生じるフォトメカニカル波を用いた経血管的薬剤輸送と,低エネルギーで照射した際に発生する光音響波を用いた生体イメージング(光音響イメージング)を技術統合し,病変部位への薬剤輸送とその動態観測を実施可能な診断・治療一体型システムを開発することである.光音響イメージングは微小病変や深部病変の高感度検出に適しており,フォトメカニカル波は同部位への高効率・選択的な薬剤輸送を可能にする.よって両者の統合は多種多様な疾患に対して新しい薬剤治療戦略を与えうる.本年度は,薬剤輸送と薬剤動態観測の統合型プローブを開発し,動物実験によりその効果ならびに有用性を検討した.昨年度に開発したファイバー照射型の小型・軽量な光音響イメージング装置を基盤に,低エネルギーパルス光の伝送により光音響イメージングを,高エネルギーパルス光の伝送によりフォトメカニカル波を発生させて薬剤を輸送する統合型プローブを開発した.まず光音響イメージングの特性として,直径7マイクロメートルの炭素繊維を計測対象に空間分解能を評価した結果,横方向分解能65マイクロメートル,深さ方向分解能48マイクロメートルが得られることを確認した.次に薬剤輸送のためのフォトメカニカル波の特性評価として,出射パルス光をレーザー吸収材(黒色天然ゴム)に照射して発生するフォトメカニカル波の圧力時間波形をニードル型ハイドロフォンで取得した結果,ピーク圧力約90 MPaが得られ,生体組織へ薬剤を経血管輸送できる可能性が示された.マウス皮下腫瘍モデルを用いた動物実験に本システムを適用した結果,標的組織への模擬薬剤(エバンスブルー)の空間選択的輸送と同部位の薬剤分布の経時的イメージングを達成した.
1: 当初の計画以上に進展している
薬剤輸送とその動態観測のための統合型プローブを開発し,両機能において所望の性能を得ることができた.これにより疾患モデルを用いた動物実験を予定よりも早く開始することができたため.
本年度の成果により,薬剤輸送と薬剤動態観測の統合型プローブを開発し,マウス皮下腫瘍モデルと模擬薬剤を用いた実験でその有用性を示した.今後は,同モデルへの治療薬(光感受性薬剤)の輸送とその観測に本システムを用い,治療(光線力学的療法)の効果が向上しないか検討する.治療効果の評価方法としては,標的部位の血流の観測,腫瘍体積の測定,HE染色による病理組織学的評価の実施を予定している.
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Japanese Journal of Applied Physics
巻: Vol.53 ページ: 126701/1-6
10.7567/JJAP.53.126701