研究概要 |
2013年度は, 以下の2つの研究を主に推進した。 (1)ケプラー宇宙望遠鏡の高精度測光データを用いた星の自転軸傾斜角測定 (2)低質量星周りの惑星探査のための視線速度解析ソフトの開発以下ではこれらそれぞれについて詳しく述べる。 (1)の研究の目的は, トランジット惑星を持つ星に対して星の自転軸傾斜角を測定する事で, 惑星の軌道進化を議論する上で重要な「恒星自転軸と惑星公転軸の関係」を調べる事である。恒星面上にある黒点による星の明るさの今回は新たに25個のケプラー惑星候補保有天体に対してすばる望遠鏡を用いた高分散分光観測を実施し, 星の自転傾斜角を推定した。結果, いくつかの惑星系では構成自転軸と惑星公転軸がずれている可能性がある事が判明した。これまで, このような惑星系は巨大惑星を持つ場合に限られていた。今回の観測した惑星は地球~海王星サイズの惑星を持つ系のみであった事から, 今回の結果はそういった小さい惑星がどのように形成され進化して来たかを議論する上で貴重な観測的な証拠となる。 (2)の研究内容は, 現在すばる望遠鏡への取り付けが決まっている新赤外高分散分光器を用いて, 主に低質量星周りの惑星を探るプロジェクト(IRD)で用いられる視線速度解析の方法論(+ソフトウェア)の開発である。近赤外における高分散分光観測では, 可視光域での観測と異なり地球大気の吸収によって天体のスペクトルに多数の追加の吸収線が刻まれてしまい, 吸収線のドップラー変位を用いた視線速度測定に悪い影響が及ぼすという問題がある。本研究では, 理論的に計算した地球大気の透過光スペクトルを用いることで観測される天体(+地球大気)のスペクトルをモデル化する方法論を適用し, うまく天体スペクトルの吸収線のドップラー変位を取り出す事が出来た。これを用いてIRDプロジェクトにおける視線速度測定のパイプラインを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年度に行った, (1)ケプラー宇宙望遠鏡の高精度測光データを用いた星の自転軸傾斜角測定, (2)低質量星周りの惑星探査のための視線速度解析ソフトの開発, という二つの研究は共に当初の計画通りであり, (1)に関しては査読付き論文として受理された事からも順調に進められたと考えている。赤外光視線速度解析の方法論の開拓に関してもいくつかの場で発表するなど, 一定の成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
惑星の軌道傾斜角の測定の研究では, 今後低質量星周りの惑星の形成・進化が重要なテーマとなる事をにらみ, ケプラー惑星候補保有天体のうち低質量星に特化して観測を進めていく。特に, 低質量星周りでは海王星型惑星や地球型惑星が高い頻度で存在する事が分かっており, 惑星の軌道傾斜角分布によってこれらの惑星がどのように形成されたかを解き明かしていく。 低質量星周りの視線速度観測については, 2014年末にすばる望遠鏡に新型赤外分光器(IRD)が取り付けられる事を想定して, 予想される視線速度達成精度をモンテカルロシミュレーションなどにより系統的に調べる。またIRD運用開始後は実際の観測も行う。
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