研究課題
初年度に観測に成功した「新規トポロジカル絶縁体TlBiSeにおける表面電気伝導」の成果を深化させ、より精密な測定を行なって表面電気伝導特性を決定した。トポロジカル絶縁体はスピン縮退の無い表面ディラック電子系を持つ新規物質であり、純スピン流をはじめとし多彩な量子輸送現象の舞台として大きな注目を浴びている。しかし一方で、現在までに唯一表面電子輸送が実現されたBiSe系物質は、物質そのものが大気中で不安定かつ他元素置換が必要なため乱れが大きいという問題がある。これらの影響のため理論より期待される多彩な機能性を引き出すことが困難という事実が明らかになりつつある。一方でTlBiSe系物質は、上に述べた問題を含まない理想に近い環境が実現していることが本研究より明らかになった。これは本系がこれまで見つかっている一連の物質の中で最も単純かつ取り扱いが容易な物質であることを示しており、本研究課題によって初めて達成された大変重要な成果と考えている。トポロジカル絶縁体の研究は、特に理論面から多くの現象が予言されている一方で実際にそれを検証できる舞台が限られることが大きな障壁となっていた。本成果により、これまで唯一と考えられてきたBiSe系に加え、新しい系であるTlBiSe系でより良い特性を見出したことは物質中のトポロジーに関する普遍的性質を究明する上で非常に大きな進展といえる。本成果をまとめた論文は2014年11月にPhysical Review B誌にRapid Communicationとして掲載された。さらに、TlBiSeの第一報となる論文、既存の解析手法の問題点を克服した新しい手法に関する論文の2編が現在投稿、査読中である。また招待講演を含め、上記の成果に関する発表を国内外で行った。
1: 当初の計画以上に進展している
多彩なトポロジカル量子現象を調べる上で「比較検証が可能な実験系が少ない」という問題を克服する成果といえ、従って非常に大きなインパクトを持つと考えている。さらに最近の大きな進展として、既存の実験解析手法の問題点を回避する新しい解析手法の発見が挙げられる。今日までに報告されているトポロジカル絶縁体の輸送特性は、解析結果の正当性が担保されない領域まで拡大解釈され理論から期待される推論に基づいて議論が行われている現状がある。報告者はこの問題点を指摘し、同時に輸送特性を高い精度で決定する新しい解析手法を発見、構築した。これにより正当性が担保されず「推論」として扱わざるを得なかった結果を「実験事実」のレベルまで引き上げることに成功した。また新しい手法は輸送測定一般に適応でき非常に汎用性が高い。従って他分野への波及効果が大きく期待できる。上に述べた二点が当該年度に達成された進展であり、いずれも大きなインパクトを持つ成果といえる。以上を踏まえ①当初の計画以上に進展している、とする。
既に述べた一連の成果により、電子輸送特性について一定の理解が得られたと考えている。次の目標として本系におけるスピン輸送特性、熱特性、および散乱機構の解明の三点を設定し、解決に向け始動する。本課題は2007年以降急速に発展した新規概念に関連するテーマであり、未解明な部分が多い。また本課題は半導体分野、強相関電子系分野、光物性分野をはじめとする先端研究の境界分野に位置し、従って各分野の知識を融合し慎重に研究を進める必要がある。具体的には微細加工、極低温測定技術といった各分野の強みを活かし、専門家と議論を重ねながら慎重に実験を進める。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Physical Review B
巻: 91 ページ: 014511
http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevB.91.014511
Physical Review B Rapid Communications
巻: 90 ページ: 201307(R)
http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevB.90.201307
http://cmp.kuee.kyoto-u.ac.jp/member_detail_eguchi_en.html