遺伝子発現パターンの変化は進化の重要な駆動力であるため、遺伝子発現機構のひとつであるエピゲノムが進化の過程でどのように変化してきたのかを明らかにすることは、進化を理解するために重要である。しかしながら、進化の過程におけるエピゲノム役割はほとんど明らかではない。本研究では進化におけるエピゲノムの役割を明らかにするために、ヒトやチンパンジーのDNAメチル化をゲノム網羅的に調べてきた。これまでに、生物種間のDNAメチル化パターンの変化とゲノム配列の変化との関連、DNAメチル化パターンの変化と遺伝子発現パターンとの関連について明らかにしてきた。また、DNAパターンの変化は体細胞よりも生殖細胞で大きく異なることも明らかにしてきた。本年度はヒトとチンパンジーに加え、アカゲザルの精子の全ゲノムメチル化を解析し3種比較を行った。その結果、ヒト特異的、あるいはチンパンジー特異的にDNAメチル化パターンが変化した領域の近傍には、性機能と関連する遺伝子が有意に多く見られた。生殖機能は進化の過程でもっとも早く変化することが知られており、ヒトとチンパンジー間でも、精子の運動能、精巣サイズ、精子形態など、性機能と関連する表現型に多くの違いが見られる。本研究の結果は、このような性機能の進化にエピゲノムの変化が重要な役割を担っていることを示唆している。 また、精子のDNAメチル化を3種で比較した結果、ヒトでは数10kb以上の広範囲にわたる低メチル化領域が、他の2種よりも増大していることが明らかになった。この現象の意味は明らかではないが、ヒト特異的に低メチル化している領域は、クロマチン高次構造の形成と関連する領域と有意に重なっていることから、核内構造がヒト特異的に変化している可能性がある。今後は、核内構造の進化について研究していきたい。
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