研究課題/領域番号 |
13J03278
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
武田 龍樹 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(DC2)
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キーワード | カンボジア / 政治的暴力 / 記憶 / 場所 |
研究概要 |
本年度は、下記の二点を中心として研究をおこなった。 第一に、これまでの研究やカンボジア北西部バッタンバン州村落部での調査で得られた資料を整理・分析し、2013年6月に日本文化人類学会で発表したことである。その発表において、民主カンプチア時代についての人々の語りの中に現れる、親密な他者の死に注目して、こうした死者と人々が関係を結ぶことの困難さを指摘した。遺骨の不在や行方不明によって、民主カンプチア時代における死者に対して葬儀がなされていない事例が見られる。この困難さは、死の意味づけめ困難さ、および語りそれ自体における死者の現前化の困難さである。また、国家の政策と結びついたミュージアムやモニュメントにおける遺骨の展示をめぐる論争・ポリティクスがあり、この点についても指摘した。 第二に、2013年11月からおよそ5カ月間、カンボジア北西部バッタンバン州村落部で現地調査をひきつづきおこなつた。調査地域の1979年以降の農地所有の実態を明らかにするために、全世帯の調査、および当時の社会的状況の聞き取り、そして水田耕作の参与観察をおこなった。1980年代前半に政府による土地の分割がなされ、世帯構成員一人につき16アールの水田が各世帯に与えられた。しかし、1980年代から1990年代後半まで、当時の若年者を中心として、この地域の周辺に存在する未開拓の土地(疎開林)へと赴き開墾し、その土地を所有する者たちがいた。このような未開拓の土地は、クメール・ルージュ軍と政府軍の戦闘がおこなわれる場所でもあった。つまり、現在、人々が所有し耕作をおこなう水田の中には、かつての戦場だったものがある。現在の人々の生業活動への参与観察と、過去の政治的暴力に関する語りの聞き取りという調査を通じて、人々の語りの内容それ自体だけでなく、語りと場所との関係性という問題が浮かび上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学会発表をおこなったことで、これまでの研究の議論の不備や資料の不足などの課題を明確化することができた。また、およそ5ヶ月間の現地調査によって、語りと場所との関係というきわめて重要な問題点を浮かび上がらせることができた。しかし、学会発表をおこなう一方で、研究論文投稿に関わる活動が不十分であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、聞き取りと参与観察による現地調査をおよそ5ヶ月間おこなう。日本への帰国後は、調査で得られた資料を整理・分析するとともに、語りと場所との関係性を考察するのに必要な研究文献を渉猟する。これらを通じて、博士論文作成の準備を進め、学会誌などへの論文投稿を目指す。
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