研究課題/領域番号 |
13J03339
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 綾香 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 障害者運動 / 社会的連帯 / 共働 |
研究実績の概要 |
今年度は、日本における障害者就労支援機関間での働き方を比較するために、異なる運動的なルーツを持つ3つの就労施設において調査を行なった。具体的には、日本における障害者の働く場作りの運動の草分けである社会福祉法人「ゆたか福祉会」および、障害当事者団体であるNPO法人「AJU自立の家」、以前から引き続き調査を行なっている、障害者と健常者との「共働」をめざし活動を行なっているNPO法人「わっぱの会」である。この結果、障害者就労支援事業所では、そのルーツが健常者職員の役割意識に影響を与えていることがわかった。加えて、そこで形成される関係性は、職員(収容者)―利用者(非収容者)の「根源的裂け目」と対比させると、まず、「ゆたか福祉会」では教育的側面から「専門性に転換する」、「AJU自立の家」では当事者主体という理念から「優位性を逆転させる」、そして、「わっぱの会」では「裂け目を否定し、異なるあり方を模索する」という3つのパターンとなっていた。このうち、最後のパターンは施設性を否定するものであり、支援という言葉だけでも説明できない、「共働」というパターンである。このパターンを実現していく中で「わっぱの会」は障害者以外にもさまざまな困難を抱えた人々を包摂しており、これが社会的連帯に繋がっている可能性が示された。 他にも、NPO法人共同連における諸イベントへの参与観察、参加団体メンバーへの聞き取りを行った。また、海外調査として、日韓社会的企業セミナーへ参加し、労働行政において政策をすすめる韓国と、福祉行政において政策を進める日本という対比が明らかとなった。ここから制度化に伴う制度の利用者―職員の線引きという関係性の差異を生み出しうる可能性が明らかとなった。引き続き調査・分析を進める。 なお、以上調査の成果の一部は、学会や研究会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定通り、「わっぱの会」「ゆたか福祉会」「AJU自立の家」における参与観察をすすめ、「共働」の特徴を明らかにするという本件急の目的の一部を達成することができた。加えて、海外の運動の状況についての調査も行ない、日本との「共働」をめぐる社会的連帯のあり方の比較につながるデータを得ることができた。この結果について、研究会および学会において報告も行なった。 しかしながら本年度は調査を中心として行なったこともあり、上記の結果を投稿論文として昇華させることはできなかった。そのため、③やや遅れている、と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度調査および平成26年度調査の結果の分析を進める。なお、海外の団体における実践および日本国内の団体の実践についても引き続き文献調査、参与観察を進める。特に、これまでの調査の中で、主な調査対象団体である「共同連」を含め、「共働」をめぐる社会的連帯を模索する活動の理念のルーツが1960年代、70年代の学生運動において提示された思想と関係していることが示唆された。このことは、日本における社会的企業やNPOなどのこれまで、そして今後の発展に大きく影響を及ぼす発見である。そのため、今後、「共同連」の主要団体である「わっぱの会」をはじめとし、各団体のこれまでの活動記録など資料を収集、精査することで、日本における「共働」がどのようにして生まれ、可能となっているのかについて明らかにしていく。加えて、そうした取り組みと海外の諸団体の活動展開過程および現在の実践との比較・検討を行なう。なお、調査結果は学会での発表および学会誌への投稿を考えている。
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