研究課題/領域番号 |
13J03391
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊貴 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 音声 / 警戒声 / 行動生態学 / コミュニケーション / シジュウカラ / 生態 / 進化 / 捕食者 |
研究実績の概要 |
私は,シジュウカラ科の鳥類が,音声によって,つがい相手やヒナ,群れの仲間に,せまりくる捕食者の種類やみつけた食物の位置など,様々な情報を伝えることを明らかにしてきた。私は,そのような複雑な情報伝達がどのような生態的要因によって進化したのか明らかにすることを目的に研究を展開している。 シジュウカラの親鳥は,ヒナの捕食者であるカラス・ヘビを警戒する際,2種類の鳴き声を使い分ける。ヒナは樹洞の巣でそれら異なる警戒声を聞くと,「うずくまる」・「飛び出す」という対照的な行動を示す。これらヒナの反応は,「巣口から嘴でヒナを襲うカラス」・「巣に侵入するヘビ」の捕食を回避する上で適応的である。また,ヒナの回避行動は,「樹洞」という営巣空間において特異的に役立つので,親鳥の鳴き声は,巣の構造と関連して複雑に進化した可能性がある。そこで,2014年度は,営巣タイプの異なる複数の鳥類種を対象に,捕食者(カラス,ヘビ)に対する親鳥の警戒声とヒナの反応を調べた。4月~7月にかけて,長野県軽井沢町および秋田県大潟村において野外研究をおこなった結果,樹洞営巣性の鳥類ではカラスとヘビを識別し,異なる警戒声を使い分けるが,椀型営巣種は識別できないことが示唆された。これらの結果は巣の構造とコミュニケーションが関連して進化したという予測を支持する。また,同時期におこなった野外実験から,シジュウカラの警戒声は,ヒナだけでなく,抱卵中の雌に対しても捕食者情報を伝え,適切な行動を促すことも明らかになった。この成果はScientific Reports誌に投稿し,受理された。 さらに,2015年2月に,チューリッヒ大学を訪問し,Griesser博士と共に音声コミュニケーションの複雑さを定量化し,種間や個体群間で比較する手法の開発をおこなった。本成果は,これまでに収集した実証研究のデータをまとめる上でも役立つと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2014年度は,採用2年度目ではあり,野外調査も軌道に乗り,多くの実証研究をおこない,貴重なデータを得ることができた。特に,巣の構造が指示的なコミュニケーション(referential communication)の進化要因であることを示す証拠が得られたこと,指示的な警戒声の解読が,育雛段階以前においても,雄と抱卵中の雌のコミュニケーションにおいて用いられることなどが明らかになったことは,大きな進展といえる。また,チューリッヒ大学を訪問し,コミュニケーションの複雑さを定量化する手法を開発したことも,大きな進展であるといえる。これら実証・理論研究の進展に加え,2014年度は,3本の論文を国際誌に受理されることとなった。また,現在も3本の原著論文と2本の総説を執筆中である。これらより,当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
まず,巣の構造が指示的なコミュニケーションの進化に与える効果を検証するには,これまでに蓄積したデータや理論研究,各鳥類種の系統関係に基づいて,系統種間比較をおこなう必要がある。また,巣の構造のみに着目するのではなく,社会性や生息環境などさまざまな要因についても考慮して,巣の構造がコミュニケーションを複雑化させる要因となりうるのか検討する必要がある。受入研究者である沓掛氏の開発した系統種間比較の方法やメタ分析を用いることでこれらの要因を統制したいと考えている。 また,捕食者相が進化要因となるか検証する課題については,ヘビの分布の有無にかかわらず,シジュウカラはヘビ特異的な警戒声に特異的な反応を示すという予測とは反対の結果が得られている。これはまだ予備的なデータではあるが,鳥類において警戒声を認知する能力は,進化的時間スケールで失われにくいことを示す興味深い観察である。今後,ヨーロッパのシジュウカラ個体群を対象とした比較研究を継続することで,音声コミュニケーションが複雑に進化する上で生得と学習がどのようにかかわり合ってきたのか,また,捕食者を認知する能力がどのような過程を経て進化したのか解明することにつながると期待される。
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