今年度は,巣の構造が音声コミュニケーションを複雑に進化させる要因となるか明らかにするための比較研究をおこなった。その結果,予想通り,椀型営巣種においては捕食者の種類を指し示す鳴き声が進化していないことを示唆するデータが得られた。また,今年度は,チューリッヒ大学のMichael Griesser氏を長野県のフィールドに招待し,野外研究をともにおこなうことで,研究課題を大きく進めることができた。 今年度は,原著論文や総説などの執筆活動を積極的におこなった。原著論文は,一般誌でもトップレベルであるNature Communications誌をはじめ,6編(うち4編が筆頭著者かつ責任著者)が国際誌に受理され,鳥類の音声による情報伝達に関する総説もEcological Research誌に投稿し,掲載された(単著)。また,本の章も2章執筆し,つくば大学や大阪市立大学では研究成果について講演をおこなった。また,執筆した論文はNature誌やScience誌にハイライトされたり,新聞やラジオ,テレビに取り上げられるなど,大きな反響を得た。 今年度の進捗として特筆すべき点は,チューリッヒ大学のMichael Griesser博士との共同研究が進んだことである。平成27年4月に日本に招待してから,7月まで共に野外研究をおこない,その後も共同で論文の執筆を進めることで,多くを学ぶことができた。これまでに3編の共著論文が受理されており,そのほかにも2編の論文を共同で執筆中である。 私は,採用期間の3年間で,鳥類の音声コミュニケーションがどのような生態要因によって進化したのか,比較法によって検証してきた。捕食者相の異なる地域でのコミュニケーション能力の比較研究については,さらなるデータの蓄積が望まれるが,採用3年間で達成しようとしていた研究目標はおおむね達成されたといえる。
|