研究概要 |
総合深海掘削計画(IODP)exp. 339(地中海流出水(Mediterranean Outflow)航海)で採取されたカディズ湾(U1387サイト)とイベリア半島西沖(U1391サイト)の堆積物コア試料についてバイオマーカー分析を行い, 地中海流出水の変動がイベリア半島周辺の古海洋環境に与えた影響について考察した. これらの堆積物試料から, ハプト藻に由来する長鎖アルケノン, 渦鞭毛藻類に由来するディノステロール, 真正眼点藻類に由来する長鎖1,13-ジオールや1,15ジオール, 珪藻の湧昇種(Proboscia)に由来する長鎖1,14-ジオールなど各種の海生藻類バイオマーカーが検出され, これらの量や組成変化からイベリア半島周辺の海洋生物生産の復元を行った. その結果, カディズ湾の海洋生物生産はジブラルタル海峡の開放後に増加していることが明らかになった. また, 全球的に寒冷化した時代として知られる330万年前(MIS M2)ごろの堆積物から1.14-ジオールが多く検出された. そのため, 寒冷化に伴う表層海流の変化や地中海流出水の活発化がカディズ湾の鉛直混合を促進したことが示唆された. 一方, イベリア半島西沖の堆積コア試料では210~200万年前を境にして, 湧昇強度の代替指標として知られるジオール指標(Diol Index)が高い値を示した. そのため, イベリア半島西沖の湧昇がこの時期を境に強化されたことが示唆される. U1391サイトは地中海流出水が原因となって形成される地中海水レンズ渦が湧昇域を拡大させる海域に位置しているため, 地中海流出水の変動による地中海水レンズ渦の発達が関係していると考えている. これらの結果は長期的な地中海流出水の変動が海洋表層に与えた影響を評価した初めての成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度に行った堆積物コア試料のバイオマーカー分析の結果から, 地中海流出水の発達が海洋表層環境に与えた影響について考察することができた. そのため, 本年度の年次計画であった「堆積コアに保存されている有機分子の詳細な分析」は十分に満たせたと言える. また, これらの結果から計画当時は予測していなかった地中海水レンズ渦の発達という新しい古環境変化も推察することができた. さらに, 上記で示した海生藻類バイオマーカー以外にも高等植物に由来するテルペノイドが多々検出されており, これらの量や組成変化から古気候変化についても議論ができる可能性がある. そのため現在までの達成度は①にあたると言える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果から地中海流出水の変動が海洋表層環境に与えた影響について考察することができたが, 現在の堆積コア試料の年代モデルは航海中の船上一次データを用いており, 他の環境変化と比較するにはより詳細な年代モデルが必要になる. そのため, 2014年6月にスペインで行われるIODP exp. 339のポストクルーズミーティングに参加し, 新たな年代モデルについての情報を入手する. また, 本年度の研究で行った古環境変動復元の解像度はおよそ10万年間隔と粗く, より詳細な古環境変動を復元するには追加試料を入手して同様の分析を行う必要がある. そのため, 来年度の早い段階で試料が保管されているブレーメンコアセンターから追加試料を取り寄せる予定である.
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