研究課題/領域番号 |
13J03398
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
風呂田 郷史 北海道大学, 理学研究院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コンターライト / イベリア半島 / 地中海流出水 / 古海洋 / 鮮新世 / 海洋生物生産 / バイオマーカー / IODP exp.339 |
研究実績の概要 |
IODP exp.339によって回収された堆積物コアの有機分子分析を行い,後期中新世~更新世におけるイベリア半島周辺の海洋表層環境の変動について考察した.分析の結果,カディズ湾における海洋生物生産は3.4-3.2 Maにおいて増加することが明らかとなった.先行研究と比較検討の結果から,鮮新世における地中海流出水の発達がアゾレスフロントをカディズ湾へ貫入させたことで,カディズ湾の海洋生物生産が増大したと結論づけた.この結果は,鮮新世における地中海流出水の発達が北大西洋の海洋表層環境に与えた影響を評価した初めての結果である.また,ハプト藻起源長鎖アルケノンによる古水温分析を行った結果,報告例の少ないC37:2アルケノンの異性体(炭素骨格の二重結合がシス型のアルケノン)が通常のC37:3アルケノンと同量程度に検出され,従来の分析方法では精確な古水温復元ができないことが明らかとなった.そのため,従来のアルケノン分析を改良し,より精度の高いアルケノン古水温分析の方法を提案した.また,MIS12-10におけるイベリア半島西部の海洋生物生産の変動を評価したところ,湧昇指標であるDiol Idex 1 (DI1)およびDI2は間氷期において高い値を示した.この結果は微化石などの先行研究の結果とは合わず,DI1やDI2は地中海渦の形成頻度の増加など異なるシステムを示している可能が高いと解釈している.これらの研究に加え,陸上高等植物に由来する有機分子分析の結果から,堆積プロセスにおける陸源有機物の挙動について検討を行った.その結果から,地中海流出水の強化が河川から供給された細屑物の側方運搬を活発化させたことを指摘した.さらに,北海道中新統川端層で見られる重力流堆積物の堆積構造の変化と有機物組成の変化を詳細に調べることで,重力流内における植物片の挙動を明らかにした.これらの結果は,詳細な堆積過程の解明に有機分子組成の解読が有効であることを強く示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度から続けてきた有機分子分析の結果を先行研究と比較検討することで,鮮新世における地中海流出水の強化に応答した北東大西洋の海洋表層環境の変動を明らかにした.また,新たな試料の分析結果から更新世における氷期-間氷期スケールでの海洋生物生産の変動についても評価を行った.これらの結果から,研究目標である地中海流出水の変動が海洋表層環境に与えた影響は順調に解明されつつある.さらに,陸上高等植物起源の有機分子組成に着目することで,コンターライト堆積システムにおける堆積粒子の運搬過程についても評価を行うことができている.これらの研究結果に加え,カディズ湾におけるアルケノン古水温計分析の問題点を指摘し新たな分析方法の確立を行うなど,当初の目的以上の成果についても得られている.これらの結果の一部は国内および国際学会で公表しており,国際誌への論文投稿準備も投稿直前まで終了している.そのため,研究の取りまとめも順調に進みつつあると考えられ,有機分子分析による堆積学および古海洋学的評価は当初の予定以上に進展していると考えられる.一方,当初予定していたケロジェン分析は十分に行うことができておらず,今後の検討と改善が必要である.これらの現状を総合的に考えると,本研究はおおむね順当に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
現段階での研究結果から,鮮新世における地中海流出水の強化に伴ったアゾレスフロントのカディズ湾への貫入が海洋生物生産を活発化させたことを仮説として提案した.しかし,現段階では風成循環の活発化に伴った湧昇強化など,他の要因を明確に除外することができていない.アゾレスフロント貫入の証拠としてはカディズ湾周辺における緯度方向の温度勾配の変化を復元する必要があり,今後の研究で検討する予定である.また,堆積物中の有機分子組成の詳細な解読から堆積当時の酸化還元状態についても考察を行っていく.特に,地中海流出水は比較的酸化的な底層流であるため,カディズ湾底層環境の酸化還元状態を復元することで地中海流出水の深度や流路を考察できる可能性がある.これらに加え,地中海水渦の形成と海洋表層環境の変動についても検討を続け,地中海流出水が海洋表層環境に与えた影響を複数の角度から考察していく.さらに,今年度達成することができなかったケロジェン分析も検討し,コンターライト堆積システムにおける有機物粒子の挙動についても明らかにしていく.最終的にはこれらの論文を統合することで国際誌への発表を目指していく.
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