IODP exp.339によって回収されたイベリア半島周辺の海洋堆積物コアの有機分子組成を詳細に検討し,微化石および花粉記録と比較することで,有機分子組成に記録された環境・堆積システム変化の解読を行った.また,上総層群黄和田層と2013年の富士川洪水堆積物を用いた比較研究を行い,有機分子組成が記録する半遠洋地域の堆積プロセスについて検討を行った. 昨年までの成果から,中極性カラムを用いたガスクロマトグラフィー分析をイベリア半島周辺の海洋堆積物に適用することで,詳細なハプト藻起源長鎖アルケノン分析が可能になることが判明していた.本年度はこの分析方法の用いて,より詳細なアルケノン組成の変化を検討した.その結果,C37/C38アルケノン比が鮮新世のGephyrocapsa属出現以降に上昇すること,C38アルケンジオンが絶滅種のReticulofenestra属によって生成されていたことが世界で初めて示唆された.また,海洋堆積物コア中の高等植物テルペノイド組成をボルドー大学による詳細な花粉分析と比較した結果,テルペノイド組成が過去の植生変化を詳細に記録していることが明らかとなった. 黄和田層の重力流堆積物には木質起源の有機分子が多く保存され,有機分子の分解程度は半遠洋性堆積物よりも低い傾向にあることが示唆された.一方,イベリア半島周辺では,コンターライト堆積物に比べ重力流堆積物が卓越する層準ほど分解程度が大きい傾向があることが判明している.これらの相違は,重力流の規模や発生要因などの違いに起因していると考えられるが,詳細な解明には研究例を増やしていく必要がある.また,富士川の洪水堆積物の有機分子分析の結果,洪水時には定常的には供給されない山岳地域の植生が海洋まで運搬されることが明らかとなった.これらの結果は,半遠洋地域堆積物の有機分子組成が個々の堆積プロセスを詳細に記録していることを示している.
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