研究課題/領域番号 |
13J03420
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
玉城 福子 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ジェンダー / セクシュアリティ / エスニシティ / 沖縄戦 / 「慰安婦」 / 記憶のポリティクス |
研究概要 |
本研究の目的は、沖縄戦における「慰安婦」をめぐる記憶のポリティクスをセクシュアリティ、ジェンダー、エスニィティの複眼的な視点から描くことを通じて、多元的で可変的な権力関係を明らかにすることである。そこで、本年度は以下の研究を実施した。 1 地域社会に対する市民運動家の影響力をみるためのモニュメント調査(実証的研究①) 「慰安婦」問題に取り組む市民グループによるモニュメント建立運動に着目し、関連モニュメントのパンフレット等の資料収集、沖縄の地方紙における関連記事の収集を行った。 2 沖縄社会に対する沖縄戦研究者の影響力をみるための言説分析(実証的研究②) 1999年、沖縄県知事と副知事による展示内容への批判が引き金となり、監修委員に無断で行政担当者が展示の内容の変更を業者へ指示した沖縄県平和祈念資料館の展示改ざん事件を取り上げた。今年度は現在の展示を明らかにするため、資料館にてパンフレット等の収集、フィールドワークを行った。さらに、沖縄県情報センターにて収集した平和資料館改ざん事件時関連資料や沖縄県立図書館にて収集した新聞記事を整理、分析した。先行研究では、軍隊による住民への暴力というテーマが最も焦点化されたが、新聞記事と行政資料と現在の展示の比較・分析から、「慰安所」とAサインバーの展示も同様に変更・削除の対象となっていたことを明らかにした。さらに、沖縄の知識人らが歴史改ざんに抵抗しつつ、セクシュアリティに関わる展示の改ざんを見過ごしてきたことを明らかにした。この研究結果は論文にまとめ、2014年に発刊予定の『女性・戦争・人権』に掲載が決まっている。 今年度は、国際フォーラムでの研究報告や新聞での一般向けコラムの掲載等、アウトリーチ活動を活溌に行い、研究成果の還元に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、実証研究①を先に行い、実証研究②を次年度に持ち越す予定であったが、実証研究②を分析するための資料の収集が先に終了したため、実証研究②の分析および論文執筆を先に行った。今年度の研究成果は、「沖縄における『慰安婦』の記憶のポリティクス」という本研究のテーマにおいて、軍事主義や性差別が交錯する局面を明らかにしており、理論的考察を進める次年度の基盤となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、持ち越した実証研究①の調査の続行、およびデータの分析を行う。具体的には、現地にてフィールドワーク及び関係者へのインタビュー調査が中心となる。対象は、沖縄県内にある「慰安婦」のための慰霊碑であり、「アリラン慰霊のモニュメント」(渡嘉敷村1997年建立)、「恨之碑」(読谷村2006年建立)、アリランの碑(宮古島市2008年建立)である。さらに、実証研究①と実証研究②の結果を踏まえ、理論的な位置づけを明らかにする。なぜ「慰安婦」の問題化が困難であるのか(社会的記憶の変容の困難さ)、いかに戦争の犠牲者として「慰安婦」が受け入れられ得るのか(社会的記憶の変容の可能性)という問いに取組み、沖縄における「慰安婦」をめぐる記憶のポリティクスの多元元的で可変的な局面を描き、戦後の沖縄社会を再検討する。
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